新型コロナウイルス感染症に伴う人事労務対応について
この度のコロナウィルス禍に伴い、会社における人事労務問題に対し、どのように対応すればよいか等、当事務所と協力関係にある原口社会保険労務事務所様にお寄せいただいているお問い合わせにつきまして、Q&A形式にまとめてみました。
昨今の厳しい情勢の中、少しでも、皆さまのお役に立ちましたら幸いです。
<緊急事態宣言が出された場合の休業について>
Q1. 新型コロナウイルスに関連して緊急事態宣言が出されました。休業を余儀なくされた場合は、従業員の賃金については、どのような扱いになるのでしょうか?
A1. 労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」とされております。
しかし、 緊急事態宣言が出されたとなると、顧客の激減や従業員が通勤できなくなるなどで休業を迫られる場合、「使用者の責めに帰すべき事由とはいえない=不可抗力による休業」ということになり、「使用者に休業手当の支払い義務はない」との見解を示している情報が、多く見受けられます。原口先生が知り合いの労働基準監督官に尋ねたところ、「実際に緊急事態宣言が出されたとしたら、必ず厚労省のQ&Aに載ると思いますので、それに従ってもらうことになります」との回答でした。
会社側から、「安全のことを考えて自主的に休業する」等の理由で休業する場合には、休業手当を支給、不可抗力による休業の場合には、NoWork・NoPayが原則になるかと思いますが、結論としましては「現時点では国・厚生労働省の回答が玉虫色なので、(支払えるのであれば)60%分は支払っておいたほうが無難です。」という曖昧な回答になってしまいます。
ご参考までに4/3付けの東京新聞に載っていた記事から、当該休業に関する図表をご紹介いたします。
https://www.tokyo-p.co.jp/article/economics/list/202004/CK2020040302000154.html
この休業手当の支払い義務については、4/13現在でも、政治家や弁護士をはじめ、色々な立場の方が発信しておりまして、まさに百家争鳴の状態です。
「休業手当 支払い義務は? 統一解釈なく」日本経済新聞2020/4/11
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO57947960Q0A410C2EA5000/
※4/14にUPされた厚労省HP-新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-7 には
問7 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか。
が掲載されました。その回答として
新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではなく、・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか、 ・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか、等の事情を勘案して判断されます。(疑問点等があれば、お近くの労働局及び労働基準監督署に御相談ください。)
と記載されております。
結局のところ、個別の事情で判断=玉虫色の回答であることは変わらず、要するに「後は会社が判断してください」と言っていることと同じだと思っております。
上記の対応は、ある程度の企業規模があり、資金繰りにも余裕がある会社には可能かもしれませんが、大半の中小企業には無理な話であると考えております。
何より、厚労省をはじめとする役所や、現段階においても休業手当支払いを求めている発言者たちは、もし仮に、この自粛要請が長引いて、資金繰りが(人件費だけでなく)その他の固定費にも圧迫されたことにより数か月後に企業が縮小又は倒産してしまい、結局そこで働く従業員が職を失っても、「絶対に責任を取ってくれません」ので、会社を存続させるためにもシビアにご判断いただきたいと考えております。
<緊急事態宣言が出された場合の休業と年次有給休暇について>
Q2. Q1と同じく、休業を余儀なくされた場合に、休業期間中に年次有給休暇を取得してもらうことに問題はありますか?
A2. 年次有給休暇は、原則として従業員の請求する時季に与えなければならない、とされていますので、会社が「強制的に」取得させることはできません。また、後にあるQ3の解説にもありますが、理論上は、そもそも休業中は労務の提供が免除されているので、年次有給休暇は請求できない(=使えない)のが、原則となります。
しかし、休業が決定となった場合、Q1でのご説明の通り、ご本人にとっては、賃金の60%相当額の休業手当しかもらえないか、場合によっては、その休業手当の支払いさえ無くなる、という事態となります。100%受け取れる有休消化の方が有利であることは明らかです。
結論から申しますと、「強制」はできませんが、「合意」できれば全く問題ございませんので、上記の内容を説明した上で、双方合意のもとで、有休取得をすすめていただければ、と考えております。
ただし、雇用調整助成金等を申請する場合、有休処理してしまうと助成金の支給対象から外れてしまいますのでご注意下さい。
<休業決定後の年次有給休暇への変更>
Q3.休業を決定した後に、従業員から当該休業日に年次有休休暇取得を請求された場合、認める必要がありますか?
A3. Q2の解説と重なりますが、理論上、年次有給休暇は、会社側から要請されている労務の提供を免除した上で、さらにその免除された労務に対する賃金を補償してあげる、という趣旨のものとなっています。ゆえに、そもそも休業中は労務の提供が免除されているので、年次有給休暇は請求できない(=使えない)という解釈が成り立ちますので、認める必要はありません。
しかしながら、これもQ2の解説にもありますように、実務上では、休業手当による補償では満額もらえず、必ず困る人が出てきますので、もしできましたら「(上記の理由で)本当は認められないのだけれど、会社として特別に認めてあげます」といった考え方によって、休業中の有休消化を認めてあげることをご検討下さい。
Q2と同じく、雇用調整助成金等を申請する場合、有休処理してしまうと助成金の支給対象から外れてしまいますのでご注意下さい。
<感染した方を休業させる場合>
Q4. 従業員が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合、休業手当はどのようにすべきですか?また、家族が発症した場合の対応は?
A4.新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により従業員が休業する場合は、これは明らかに「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。なお、社会保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、健康保険の傷病手当金が支給されます。具体的な申請手続き等の詳細については、顧問の社労士さんにお問い合わせ下さい。
また、家族が新型コロナウイルスに感染している方等については、法律で保健所等にて調査を行われることになっております。もしその調査で「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」と判断された場合については、外出自粛の要請がなされますので、その場合の休業も「使用者の責に帰すべき事由による休業」ではないため、休業手当は不要となります。
<感染が疑われる方を休業させる場合>
Q5.新型コロナウイルスへの感染が疑われる方について、休業手当の支払いは必要ですか?
A4.「実際に発熱等の症状がある場合、社会通念上労務の提供ができないため、給与支払い義務はない」との意見を表明している弁護士・社労士がおりますが、厚労省HPでは「例えば発熱などの症状があることのみをもって一律に従業員に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には使用者の責に帰すべき事由による休業に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。」と掲載されております。
休業手当を支払うことを前提にすると、「仮病によるズル休み」を警戒してしまいますが、万が一、社内での感染拡大などが起きたら、取り返しのつかないほどの損害が生じてしまいます。従業員全員に頻繁に検温させることは、物理的にも無理がありますし、また発熱や倦怠感などは基本的に従業員からの自己申告となり、何らかのエビデンスを確保することは不可能なので、まずは労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、従業員が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。
今は多少の休業手当のコストがかかってでも、出勤を抑えていただく方向でのご決断をお願いしたいと考えております。
<発熱などがある方の自主休業>
Q6.従業員が発熱などの症状があるため自主的に休んでいます。休業手当の支払いは必要ですか?
A6.新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため従業員が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、場合によっては年次有給休暇を取得してもらうことなどが考えられます。
<年次有給休暇と病気休暇の取り扱い>
Q7. 新型コロナウイルスに感染している疑いのある従業員について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いは、労働基準法上問題はありませんか?病気休暇を取得したこととする場合はどのようになりますか?
A7.年次有給休暇は、原則として従業員の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。会社で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則などの規定に照らし適切に取り扱ってください。
<出勤不可のルール化とその運用について>
Q8.会社側で、発熱や咳症状等がある場合に、出勤不可とするルールを決めることは可能でしょうか?またそれら症状を申告せず、隠して出勤した場合への対応は?
A8.Q5の解説の繰り返しになりますが、「実際に発熱等の症状がある場合、社会通念上労務の提供ができない」という方針の下、出勤不可として就業を許可しないことに対しては、グレーな部分が多く「完全に適法、とは言い切れない」と思っておりますが、現在のような状況下では、万一社内感染が見つかった場合には、取り返しのつかないことになりかねません。そのため年内の時限的な決まりとして、例えば「37度以上の発熱、味覚・嗅覚の異常、著しい倦怠感のあるものは、出勤停止。回復後も○日間は自宅待機(賃金は60%支給する)」といった特別ルールを作っていただくことも、ご検討下さい。
またこのルールに反して、発熱や咳症状等と隠して出勤した場合には、厳重注意としていただき、繰り返した従業員に対しては、懲戒処分とする旨、会社側から発信していただきたいとも思っておりますが、症状には個人差があるため、当該ルール違反に対して懲戒処分を課すことは、実際には難しいと考えております。
<パートタイマー、派遣社員等への適用について>
Q9. パートタイム従業員、派遣従業員、有期契約従業員などの方についても、休業手当の支払いや年次有給休暇の付与等は必要でしょうか?また派遣社員の場合、派遣元と派遣先どちらが自宅待機の判断をして、その場合の休業手当はどうなるのでしょうか?
A9.労働基準法上の従業員であれば、パートタイム従業員、派遣従業員、有期契約従業員など、多様な働き方で働く方も含めて、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となっております。
また、派遣社員の休業の場合、原則、派遣先側の指示によることになりますが、雇用主である派遣元に労働基準法の休業手当支払い義務が課されます。休業中の派遣料金の支払いについては、派遣会社との契約内容によりますので、ご確認をお願いいたします。
さらに、派遣社員については、厚労省HP-新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-7
にも、以前より詳細な内容が記載されておりますので、ご参照願います。
<外国人の労働者に対する労働基準法等の適用>
Q10. 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、年次有給休暇など)は、外国人を雇用している場合でも適用されますか?
A10.労働基準法の適用があるか否かに、外国人であるかは関係ありません。外国人の方であっても、労働基準法の労働者に当たる場合は、一定の要件を満たす場合には、労働基準法における休業手当の支払いを行っていただくとともに、労働者が年次有給休暇を請求した場合においては、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならないものです。
Q11.小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援は、外国人を雇用する事業主にも対象になりますか?
A11.事業主に雇用される労働者であれば外国人についても適用されます。
<保育所登園自粛の場合の育児休業延長について>
Q12. 保育所に子どもを入所させる予定だった労働者が、市区町村等から当該保育所への登園自粛の要請を受けたため、当面子どもを保育所に預けないこととなりました。こうした場合、育児休業の延長を認めなければならないでしょうか?
A12.
<子どもが1歳までの場合>
現在育児休業中の労働者から申出があった場合、事由を問わず育児休業の終了予定日の繰下げ変更を認める必要があります。なお、繰下げ変更後の休業期間についても育児休業給付金は支払われます。※詳細は厚労省HPご参照下さい。
また、育児休業から一度復帰している方から再度の休業の申出があった場合も、休業を認める必要があります。なお、再度の休業期間についても育児休業給付金は支払われます。
<子どもが1歳又は1歳6か月になるときの場合>
子どもが1歳又は1歳6か月になるときに、引き続き育児休業をしたい旨労働者から申出があった場合、育児休業(1歳からの休業は最長1歳6か月まで又は1歳6か月からの休業は最長2歳まで)を認める必要があります。なお、引き続き休業した期間についても育児休業給付金は支払われます。
このほか、労使の話し合いにより、例えば子どもが2歳以上の場合などについても独自に休業を認めることは差し支えありません。なお、こうした法を上回る対応により認められた休業期間については、育児休業給付金は支払われないためご留意ください。
Q13. 保育所に子どもを入所させる予定だった労働者が、市区町村等からの登園自粛の要請は受けていないものの、感染防止のために自主的に子どもを保育所に預けないこととしました。こうした場合、育児休業の延長を認めなければならないでしょうか?
A13.
<子どもが1歳までの場合>
現在育児休業中の労働者から申出があった場合、事由を問わず育児休業の終了予定日の繰下げ変更を認める必要があります。なお、繰下げ変更後の休業期間についても育児休業給付金は支払われます。※詳細は厚労省HPご参照下さい。
また、育児休業から一度復帰している方から再度の休業の申出があった場合には、再度の休業を認める必要はありませんが、各企業において独自に再度の休業を認めることは差し支えありません。なお、こうした法を上回る対応により認められた休業期間については、育児休業給付金は支払われないためご留意ください。
<子どもが1歳又は1歳6か月になるときの場合>
子どもが1歳又は1歳6か月になるときに、引き続き育児休業をしたい旨労働者から申出があった場合、申出を認める必要はありませんが、各企業において独自に休業を認めることは差し支えありません。なお、こうした法を上回る対応により認められた休業期間については、育児休業給付金は支払われないためご留意ください。
このほか、労使の話し合いにより、例えば子どもが2歳以上の場合などについても独自に休業を認めることは差し支えありません。なお、こうした法を上回る対応により認められた休業期間については、育児休業給付金は支払われないためご留意ください。
<健康診断の実施>
Q14. 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、健康診断の実施を延期するといった対応は可能でしょうか?
A14.事業者は労働安全衛生法の規定に基づき、労働者の雇入れの直前又は直後に健康診断を実施することや、1年以内ごとに1回定期に一般健康診断を行うことが義務付けられていますが、これらの健康診断の実施時期を令和2年5月末までの間、延期することとして差し支えありません。
しかしながら、6か月毎の特殊健康診断等の取扱いは従前どおり法令に基づく頻度で実施いただく必要があります。
<労災補償>
Q15. 労働者が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、労災保険給付の対象となりますか?
A15.業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となりますが、認定されるかどうかは、管轄の労働基準監督署に相談することになります。
<職場のいじめ・嫌がらせ>
Q16. 職場での嫌がらせなどへの対応はどうすればよいでしょうか?
A16.新型コロナウイルスへの感染や、新型コロナウイルスに関連して労働者が休暇を取得したこと等コロナウイルスに関連したいじめ・嫌がらせが行われることのないようご留意いただき、労働者に周知・啓発する、適切な相談対応を行うなど、必要な対応を徹底していただくようお願いします。
<新卒の内定者について>
Q17.今春から就職が決まっている新卒内定者の内定を取り消したり、入社してすぐに休ませてもいいでしょうか?
A17.新卒の採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消しは無効となります。事業主は、このことについて十分に留意し採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずるようにするとともに、まずは弊所にご連絡ください。
また、新入社員を自宅待機等休業させる場合には、当該休業が使用者の責めに帰すべき事由によるものであれば、使用者は、労働基準法第26条により、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
<検査結果の証明について>
Q18. 従業員が就業する上で、労働者が新型コロナウイルス感染症に感染しているかどうか確認する必要はありますか?
A18. 現在、PCR検査は、医師が診療のために必要と判断した場合、又は、公衆衛生上の観点から自治体が必要と判断した場合に実施しています。
そのため、医師や自治体にPCR検査が必要と判断されていない労働者について、事業者等からの依頼により、各種証明がされることはありません。
Q5での回答と重なりますが、未だに簡易に検査が受けられない現状では、万が一社内での感染拡大などが起きたら、取り返しのつかないほどの損害が生じてしまいますので、少しでも感染が疑われる方、体調のすぐれない方につきましては、今は多少の休業手当のコストがかかってでも、出勤を抑えていただく方向でのご決断をお願いしたいと思っております。
※この解説は2020年4月15日時点での厚生労働省HP及び各種報道資料をもとに作成しております。
厚生労働省HPは日々更新されており、今後の状況によっては、適切な回答が変わってくるケースがございますので、ご不明な点などございましたら、各行政機関のHPにてご確認いただくか、または弊所までご相談下さいますようお願いいたします。
弁護士というと、敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、どうぞお気軽にご相談ください。
ご相談者さまの想いをしっかりと受け止め、次への新しい一歩を全力でお手伝いいたします。