残業代の未払いへの罰則とは?請求された際の企業の対応策を解説

残業代を未払いのまま放置していると、企業側に罰則が適用される可能性があります。企業に対する社会の信用も失われてしまうと高いリスクが発生するため、そういったことのないよう残業代はきちんと支払いましょう。

この記事では残業代を払わない場合の罰則や従業員側から残業代を請求されたときの企業側の対処方法をお伝えします。

未払い残業代が発生している場合や従業員から未払い残業代を請求されてトラブルになっている場合などにはぜひ参考にしてみてください。

1.残業代未払いで会社が受ける可能性のある罰則とは?

残業代などの給与支払いは会社の義務です。

1日8時間、1週間に40時間の法定労働時間を超えて働かせた場合や深夜早朝、休日労働をさせた場合には、企業側は労働者側へ割増賃金を払わねばなりません。

きちんと残業代を払わない場合、経営者側には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」が科されます。

また労働者に法定労働時間を超えて働かせる場合、企業は労働者側と「36協定」を締結する必要があります。

36協定を締結せずに残業をさせた場合や36協定に違反して上限を超えて働かせた場合にも会社側に罰則が適用されます。罰則の内容は残業代不払いの場合と同様「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」となります。

1-1. 罰則の対象は代表者や取締役に限られない

残業代を払わなかったときに罰則を受ける対象者は、「法律に違反した人」です。会社の代表者や取締役、直属の上司などが典型的な対象者といえるでしょう。

1-2.会社も刑罰の対象となる可能性がある

労働基準法第121条では、違反した人だけではなく会社などにも罰則が科されると定められています。

会社が罰則の適用を受けると、社会の信用を失うでしょう。ハローワークで助成金を受給できなくなったり、新規取引に入るのが難しくなったり、求人を出しても応募が来なくなったりする可能性もあります。

2.従業員からの請求を放置するリスク

従業員からの残業代請求を放置していると、以下のようなリスクが発生します。

2-1.遅延損害金が発生する

まずは未払い残業代に遅延損害金が付加されるリスクが発生します。

遅延損害金の割合は、従業員の在職中は年率3%ですが、退職後は年率14.6%にもなります。

遅延損害金が加算される分、企業側が支払わねばならない残業代の金額がどんどん膨らんで行くリスクが発生します。

2-2.労働審判や訴訟を申し立てられる

企業が従業員に残業代を払わないと、従業員側が労働審判や訴訟を申し立てる可能性があります。

こうした手続きの申し立てがあると、企業側としても適切に対応しなければなりません。多くの企業は弁護士に依頼しますが、そうなると弁護士費用もかかります。

労働審判や訴訟などの法的な手続きに持ち込まれることも企業側にとっては大きなリスクとなるでしょう。

2-3.付加金を請求される

訴訟で残業代の支払い命令が出る場合、裁判所は「付加金」の支払いを命じることができます。付加金の金額は「不払い残業代と同じ金額まで」です。

つまり付加金を足されると、本来の2倍の残業代を払わねばならない可能性があります。

判決で付加金を加算される可能性があることも、企業側にとって大きなリスクといえるでしょう。

3.未払い残業代を従業員から請求された際に確認すべきポイント

企業側が従業員から残業代を請求されたら、以下のような点を確認しましょう。

3-1.残業代の計算が合っているか

まずは従業員による残業代計算方法が間違っていないか、確認しましょう。

従業員側の計算が必ずしも合っているとは限りません。

残業代の証拠がないケースでは推定計算している場合などもあります。

計算が間違っていれば、訂正して請求金額を減らせる可能性もあります。

従業員がどのような根拠で残業代を計算しているのか、割増賃金率が合っているのかなど綿密に検討しましょう。

3-2.時効が成立していないか

残業代請求権には消滅時効が適用されます。時効が成立していれば、残業代を支払う必要がありません。「時効の援用」をすれば残業代支払いを拒否できます。

残業代請求権の時効期間

従来は中小企業の場合、残業代の時効期間は2年でした。しかし2023年4月からは中小企業でも残業代請求権の時効が3年間に伸長されます。

3-3.残業を禁止していなかったか

企業側が残業を禁止しているのに従業員が自己判断で残業した場合、基本的に企業側が残業代を支払う必要はありません。残業を禁止していなかったかどうかについても確認しましょう。

3-4.管理監督者ではないか

対象の従業員が労働基準法の定める「管理監督者」の場合、法定労働時間を超えて働かせても割増賃金を払う必要がありません。

残業代を請求している従業員が管理監督者に該当しないか、確認しましょう。

たとえば以下のような従業員は管理監督者に該当する可能性があります。

  • 経営方針の決定に関与する従業員
  • 労務管理を行う従業員
  • 出退勤について裁量が認められている従業員
  • 他の従業員より待遇が良い従業員

4.未払い残業代を請求された際の対応方法

企業が従業員から未払い残業代を請求されたら、以下のように対応すべきです。

4-1.請求内容を確認する

まずは従業員側からの請求内容を確認しましょう。

そもそも残業代が発生しない場合や時効によって支払わなくて良いケースなら、支払いを拒否すべきです。

また従業員側の計算方法が間違っているケースもよくあります。その場合、請求額より大幅に減額できる可能性があります。

4-2.反論を検討する

次に従業員側に対する反論を検討しましょう。

残業を禁止していたのに勝手に残業をされた場合や、対象従業員が管理監督者だった場合などには残業代を払わなくて良い可能性があります。

従業員側の計算が間違っている場合には、訂正を求めるべきです。

4-3.交渉する

残業代に関する主張の整理ができたら、従業員側と交渉しましょう。

具体的にいくらの残業代をいつまでに支払うのか、話し合って決定します。

合意ができたら合意内容を明確にするため「合意書(和解契約書)」を作成しましょう。

4-4.必要に応じて支払いを行う

従業員側と和解ができたら、必要に応じて支払いをしましょう。

合意した通りに支払いをすれば、残業代トラブルを解決できます。

5. 未払い残業代の請求対応を弁護士に依頼するメリット

従業員側から未払い残業代請求をされたら、弁護士へ依頼するようおすすめします。

以下で未払い業大請求への対応を弁護士に依頼するメリットをお伝えします。

5-1.支払わなくて良いケースの切り分けができる

残業代請求をされても、すべてのケースで支払いが必要なわけではありません。

時効が成立している場合もありますし、従業員が管理監督者に該当するケースや、みなし残業代制度が適用されるケースなどもあります。

弁護士に相談すると、こうした「残業代を払わなくて良いケース」の切り分けができます。払わなくて良いケースにまで払わなくて良くなるメリットがあるといえるでしょう。

5-2.残業代を正確に計算できる

自社で残業代を正確に計算するのは簡単ではありません。

弁護士に相談すれば、正しい計算方法をあてはめられるので未払い残業代の金額を正確に算定できます。その結果、従業員による見積額より大幅に支払金額が減る可能性もあります。

5-3.手間と時間を節約できる

自社で残業代請求へ対応すると、手間や時間をとられてしまいます。

弁護士に依頼すれば弁護士が全面的に対応するので、企業の貴重な時間や労力を節約できます。

5-4.有利に交渉を進めやすくなる

自社で従業員と交渉するより、専門的な知識を持ち交渉スキルの高い弁護士に依頼した方が、有利に交渉を運びやすくなるものです。

5-5.労働審判や労働訴訟を申し立てられても対応できる

弁護士に依頼していれば、労働審判や労働訴訟を申し立てられても対応を任せられて安心です。

まとめ

従業員から未払い残業代の請求をされたら、あせらずに相手の請求内容をしっかり分析しましょう。請求額を大きく減額できるケースも少なくありません。

未払い残業代トラブルに対応するには弁護士のサポートがあると役立ちます。武蔵野経営法律事務所では中小企業の支援に力を入れていますので、労使トラブルでお困りの場合にはお気軽にご相談ください。

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