退職勧奨の進め方は?違法にならないためのポイントを弁護士が解説

仕事ぶりが悪い社員や問題を起こす社員に辞めてもらいたいと考えている企業は多いのではないでしょうか。日本の労働法令は解雇に対して厳しく規制していますから、企業が従業員を解雇するためのハードルは非常に高いです。

そこで、「退職勧奨」が有効な手段となります。しかし、退職勧奨の進め方や手続き次第では違法な退職勧奨となってしまうリスクがあります。

今回は、退職勧奨の進め方や違法にならないためのポイントについて解説します。

退職勧奨とは

まずは、退職勧奨とはどのような手続きをいうのか、その内容、法律上の位置づけや解雇との違いについて説明します。

退職勧奨とは

退職勧奨とは、労働者が自発的に退職するよう、使用者が労働者に対し辞職(労働者による労働契約を終了する旨の一方的な意思表示)または合意解約による労働契約の終了を推奨する行為をいいます。ざっくりと言えば、退職勧奨=労働者に対し退職を勧める行為です。

退職勧奨を行うこと自体やどのような方法で行うかは、使用者の自由です(もっとも、後述するとおり方法次第では違法となるおそれがあります)。労働者の側から見ても、退職勧奨に応じるか否かは労働者の自由です。

解雇との違い

退職勧奨は、あくまで使用者・労働者間での合意による労働契約終了や労働者からの意思表示による労働契約終了を目指して退職を勧めるものです。企業から退職勧奨を行ったのみでは労働契約は終了しません。また、退職勧奨についてはその方法等につき明確な法規制はありません。

これに対し、解雇は、使用者による労働契約を終了させる旨の一方的な意思表示です。労使間の合意や労働者からの意思表示ではなく、企業からの一方的な意思表示により労働契約が終了します(解雇が適法に行われることが前提です)。このように、解雇は労働者の意思に関係なく使用者の一方的意思表示により労働契約を終了させる行為ですので、厳格な法規制が敷かれています(cf労働契約法16条、同法17条、労働基準法20条等)。

退職勧奨の進め方と注意点

次に、退職勧奨に関する進め方や注意点を解説します。

社会通念上相当と認められる範囲を逸脱してはならない

前述のとおり、退職勧奨には明確なルールが存在しません。そのため、退職勧奨の進め方は使用者の自由です。

しかし、労働者の自由な意思決定を阻害するような方法・態様での退職勧奨は違法となるおそれがあります。過去の裁判例でも、「退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負う」と判示されました(東京高判平成24年10月31日 日本アイ・ビー・エム事件)。

退職勧奨が社会通念上相当と認めれる範囲を逸脱してしまうと、上記の裁判例のように損害賠償責任を負ったり、態様次第では強迫(民法96条1項)や錯誤(民法95条)を理由にせっかく獲得した合意解約が無効となったりするリスクもあります。違法とならないよう、退職勧奨の進め方には細心の注意が必要です。

会社都合退職とみなされる可能性が高い

退職勧奨により退職となった場合、会社都合退職とみなされる可能性が高いです(cf東京地裁平成22年6月25日等)。

会社都合退職か自己都合退職かは、退職金、雇用保険の給付、雇用調整助成金等、様々な場面で問題になります。会社都合退職となった場合に会社としてどのような手続きが必要になるのか、事前に確認しておくとよいでしょう。

違法となる具体例

続いて、どのような退職勧奨が違法となるのか、具体例をお示しします。

最高裁昭和55年7月10日(下関商業高校事件)

退職勧奨を受けた労働者が退職するつもりがないことを表明していたに関わらず、数カ月にわたり多数回かつ長時間の退職勧奨を継続したことが、あまりに執拗であるため退職勧奨として許容される限度を超えているとして慰謝料の支払を命じた原審を肯定した最高裁判所の判例です。

退職勧奨での発言が適切であっても、多数回かつ長時間の退職勧奨を繰り返したことをもって社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものとみなされるおそれがあるといえます。

神戸地裁姫路支部平成24年10月29日(兵庫県商工会連合会事件)

退職勧奨にて、使用者による「自分で行先を探してこい。」「管理職の構想から外れている。」「ラーメン屋でもしたらどうや」等の発言が、労働者の名誉感情を不当に害するものであり不当な心理的圧力を加えるものであるため退職勧奨の態様が社会通念上相当と認められる範囲を超え違法であるとして、退職勧奨を実施した役員の不法行為責任(民法709条)及び会社の使用者責任(民法715条)が認められました。

この裁判例では、退職勧奨の際の使用者の発言がダイレクトに違法と評価されました。名誉感情を害した点も違法の理由の1つとされていますので、退職勧奨の際には労働者個人の名誉感情に対する配慮も要求されるといえます。

大阪地裁昭和61年10月17日(ニシムラ事件)

労働者による社内保管金の費消が横領とは直ちに認定できないにも関わらず、使用者が退職勧奨に際し「これは横領だ。責任をとれ。告訴や懲戒解雇ということになれば、困るだろう」等告げて労働者に行わせた辞職の意思表示は、強迫により畏怖したことにより為されたものとして、取消しが認められました。

この裁判例での企業側の主な敗因は、横領とは直ちに認定できないにも関わらず横領と決めつけてしまった点です。社内のお金の流れを入念に確認する、従業員や取引先等から事情を聴取する等、横領と認定できるだけの証拠をきちんと揃えたうえで退職勧奨に臨んでいたら、結論は違ったかもしれません。

退職勧奨を弁護士に依頼するメリット

これまで見てきたとおり、退職勧奨はその方法・態様によっては違法と評価され、役員や会社が損害賠償責任を負ったり、合意解約が取り消されたりするリスクがあります。また、退職勧奨には明確なルールが無いため自由に行えますが、自由だからこそ、どのように進めればよいのか分からないというお悩みもあるでしょう。

弁護士に依頼すれば、退職勧奨のスケジュール、方法や事前に準備すべき事項を提案できます。また、発言内容や退職勧奨に成功した場合に取り交わすべき書面等、実務的な側面でのサポートも受けられます。弁護士のサポートを受けることで、適切・迅速・円満に退職勧奨を成功させられるでしょう。

まとめ

退職勧奨は、解雇よりも円満に退職へ誘導できるため、実務的には頻繁に行われています。解雇と異なり厳格なルールは存在しないため、その方法・態様・回数等は使用者の自由です。とはいえ、進め方次第では違法とみなされ、使用者に大きな損害をもたらすおそれがあります。退職勧奨を行うに際しては、入念な事前準備と社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様での退職勧奨は行わないという意識が重要です。

武蔵野経営法律事務所では企業の労務問題の支援に力を入れていますので、ハラスメントへの対応でお困りの場合にはお気軽にご相談ください。

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