最低賃金において企業が知っておくべきポイントとは?

最低賃金とは

最低賃金とは、労働者が受け取ることができる時給の最低限度額を定めたもので、労働者の生活を保護し、適正な賃金の確保を目的としています。企業は、この最低賃金を下回る賃金を労働者に支払うことはできません。

なお、最低賃金は、労働者の雇用形態(正社員、パートタイム、アルバイトなど)に関係なく適用されます。最低賃金には、以下の2種類があります

地域別最低賃金:都道府県ごとに定められる最低賃金で、その地域で働く全ての労働者に適用されます。

特定最低賃金:特定の産業や職種に特化した最低賃金で、地域別最低賃金よりも高い金額が設定されることがあります。

本コラムでは、毎年改定が行われている地域別最低賃金について以下ご説明します。

最低賃金に含まれる賃金とは

月給制や固定手当を受けている場合、最低賃金基準を満たしているかどうか確認するために1時間あたりの給与を計算する必要があります。この計算は基本給や定期的に支払われる手当を基に計算します。

最低賃金計算から除外される賃金とは

以下の賃金は最低賃金の算定から除外されます。

・臨時に支払われる慶弔手当
・賞与
・残業、休日、深夜に関する手当
・精皆勤手当
・通勤手当
・家族手当

なお、残業代を計算する際は、精皆勤手当を含んで計算します。この点が最低賃金を計算する際と異なりますのでご注意ください。

また、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが、従業員の状況とは関係なく、従業員に一律に支給されている場合、これらは最低賃金の計算にも残業代の計算にも含みます。

2023年の最低賃金額について

2023年度(令和5年度)の全国都道府県別の最低賃金は、前年度と比較して全国で39~47円と過去最高の引き上げ額になりました。なお、全国の加重平均額は前年比43円増の1004円となり、物価高を背景に初めて1000円を超え、引き上げ額も過去最高となりました。この傾向は2024年度も続くと思われます。

なお、各都道府県の地域別最低賃金の詳細については、以下のリンクで確認できます。

参考:厚生労働省『令和5年度地域別最低賃金改定状況』

企業が最低賃金に関して注意すべき点

最低賃金改定日をまたぐ勤務への対応

たとえば、三交代勤務制などで夜勤シフトの従業員が最低賃金の改定日をまたいで勤務する場合があります。最低賃金は改定日以降の勤務に対して適用されますので、改定日をまたぐ勤務では、0時以降に新しい最低賃金が適用されるよう給与計算を行う必要があります。

(従業員に有利なように給与計算を行うことは違法ではないので、改定日をまたぐ勤務については、改定日の0時以前の勤務開始時から新しい最低賃金を適用することは問題ありませんが、勤務開始時から改定日の0時を過ぎた勤務終了時まで古い最低賃金を適用することは違法となります。)

テレワーク従業員の最低賃金の適用範囲

テレワークの普及により、企業所在地から離れた場所で働く従業員が増えています。最低賃金の適用は、事業場の所在地に基づいて決まります。テレワークを行う場所が事業場と認められない場合、従業員の所属する事業場の所在地がある都道府県の最低賃金が適用されますのでご注意ください。

たとえば、東京に事業所がある会社が、千葉県に自宅のある「テレワーク従業員」を雇い入れた場合に適用される最低賃金は、東京都の最低賃金です(テレワーク従業員が所在する千葉県の最低賃金が適用されるわけではありません)。

月給者の所定労働時間が毎月変動する場合

暦日数の違いやシフト制、変形労働時間制の適用により、月給で雇用している従業員の1か月の所定労働時間が変動することがあります。月給者の最低賃金は、1年間の1か月あたりの平均所定労働時間を用いて計算します。

なお、計算結果に端数が出た場合は、切り上げも切り捨てもせず、そのままの時間で最低賃金を算出します。

最低賃金の減額特例許可制度

これは、特定の条件を満たす従業員に対して、最低賃金を下回る賃金を支払うことが許可される制度です。この制度の対象となる従業員には、障害を持つ者、試用期間中の者、職業訓練を受ける者、軽易な業務に従事する者、断続的労働に従事する者などが含まれます。

なお、この制度を自社で取り入れる際には、事前に管轄の労働基準監督署に申請をして、許可を得る必要があります。

最低賃金違反のリスク

最低賃金違反の法的責任として、違反が発覚した場合、労度基準監督署から是正命令がなされ、その是正命令に従わない場合、さらなる法的措置がとられます。悪質なケースの場合は、刑事責任を問われることもあります。また、最低賃金違反には罰金が科される場合があり、重大な違反には高額な罰金が課される可能性もあります。

なお、上記の法的責任以外にも、最低賃金違反は、大きな影響を企業イメージに与えます。

例えば、最低賃金違反が公になるとその企業の信頼性や社会的評価が低下し、顧客離れが起きるなど大きなダメージを受ける可能性があります。

また、適切な賃金を支払わないことは、従業員のモチベーションの低下にもつながり、従業員の生産性や業務の質の悪化を引き起しかねません。

最低賃金の引き上げに対する企業の対策

毎年改定される最低賃金ですが、単にコスト削減ばかりを目指すのではなく、従業員の生産性の向上や人材の能力開発にも焦点を当てて対策を講じることが必要です。

予算計画における対策

まず、財務状況の見直しを行い、賃金コストの増加が収益に与える影響を把握します。その上で、人件費予算を調整し、他の経費を削減したり、価格戦略の見直しをすることでバランスを取ります。この際に市場競争力を損なわないように配慮する必要もあります。

併せて、設備投資や業務プロセスの改善により従業員個々の生産性を向上させ、賃金コスト増加の影響を緩和することも重要です。

人材管理における対策

人材管理においては、従業員のスキルアップや能力開発を支援し、生産性の向上を図ります。これにより、賃金の引き上げに見合った価値を従業員が提供できるようにします。残業時間の削減やシフトの最適化により、労働コストを効率的に管理し、適切な賃金体系や評価制度を導入することで、従業員のモチベーションを向上させることも必要です。

また、業務量や生産性に応じて、人員配置を見直し、効率的な運用を目指すことも大切です。

専門家に依頼する必要性

法律の専門家である弁護士や社会保険労務士のアドバイスを受けることにより、企業は法的なリスクを避け、最低賃金の引き上げに対する対策を効果的に実施することができます。

法的アドバイスの提供

最低賃金の引き上げに関連する労働法や規制の最新情報を提供し、企業が法令遵守を確保できるようにサポートします。

労働契約の見直し

最低賃金の改定に伴い、従業員との労働契約を見直し、必要に応じて契約内容の調整を行います。

労働紛争の予防と対応

最低賃金の改定に伴う従業員の不満や紛争を予防し、それらが発生した場合には迅速かつ適切な対応を行います。

給与体系の再設計

賃金の引き上げに伴い、給与体系を再設計し、公平性と透明性を確保しつつ、企業の経営戦略に合致した体系を構築します。

コンプライアンス体制の強化

最低賃金の遵守を含む労働法のコンプライアンス体制を強化し、将来的なリスクを軽減します。

まとめ

最低賃金の引き上げは従業員の生活水準向上に貢献しますが、同時に企業側の負担も増加します。賃金の引き上げは労働保険料や社会保険料の増加にもつながります。賃金コストの増加に対応するためには、早めの現状確認と計画的な対策が必要です。

なお、最低賃金の順守を含む労働基準関係法令の違反が発覚した場合、法的な処罰を受けるリスクのみならず、企業の信頼性や社会的評価の低下にもつながります。したがって、法令遵守に努めることが大切です。

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