同一労働同一賃金におけるポイントを解説

同一労働同一賃金とは

同じ仕事をしているなら、雇われ方(正規雇用か非正規雇用か)に関係なく、同じ賃金をもらうべき、つまり、同じ仕事をしているのに、正規雇用か非正規雇用かの違いだけで、給与等の雇用条件に不合理な差があってはならない、というルールです。

非正規雇用とは、アルバイト、パート、契約社員など、正社員と異なり、働く時間が短い、または雇用期間が決まっている(有期契約)働き方のことです。

現在日本において、非正規雇用で働く人は約2000万人、働く人の約4割にのぼります。この同一労働同一賃金のルールは、これらの非正規雇用で働く人の待遇を改善することにより、社会全体の生産性を上げることを目的としています。

なお、企業経営者の方々にとって、実務に際し、何をもって「同一労働」と判断するのか、また、正規雇用の労働者と非正規雇用の賃金や待遇に差をつける場合に、どのような理由(根拠)があれば、不合理ではないと判断されるのかが重要になってくると思いますので、以下、解説してまいります。

同一労働同一賃金に関する法律

「同一労働同一賃金法」という法律があるわけではなく、同一労働同一賃金に関する根拠条文として、「パート・有期労働法」があります。

パート・有期労働法8条、9条

大企業において2020年4月施行、中小企業は2021年4月から施行される法律であり、大まかな内容は、

パートや有期契約の労働者につき、正規雇用の労働者への対応と比べて、

① 基本給や賞与その他の待遇について、業務内容や責任の程度等を考慮して、不合理と認められる差をつけてはならない

② 雇用形態が、パートや有期契約の社員であっても、職務の内容や配置が正規雇用の労働者と同じであれば、基本給や賞与その他の待遇において、差別的取扱いをしてはならない

③ 事業主は、労働者から求められた場合に、非正規労働者と正規労働者の待遇格差の内容や理由についての説明義務を負う

④ 不合理な待遇に関しては、行政から報告を求められたり、助言・指導・勧告がなされ、勧告に従わなかった場合は、企業名公表のペナルティを受ける可能性がある

というものです。

同一労働同一賃金に関する判決

最高裁は、2020年10月13日にメトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件、同年10月15日に日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件の判決を言い渡し、同一労働同一賃金の問題とされる非正規労働者と正規労働者の労働条件相違の合理性が争われた事件の最高裁判例として、大きな注目を集めています。

大阪医科薬科大学事件(正社員とアルバイト職員)

(事件の概要)

医学系の大学や大学付属病院を設置・運営する当該学校法人において、契約期間1年のアルバイト職員として勤務していた原告が、正規社員との比較において、基本給・賞与・年末年始及び私傷病等における欠勤の扱い等の労働条件について相違があり、この相違が旧労働契約法20条(現パート・有期労働法8条、9条)に違反するとして損害賠償等を求めた事件です。

最高裁は、賞与と私傷病等による欠勤中の賃金と休職給の相違について、控訴審判決を取り消し、不合理な労働条件の相違に当たらないと判断しました。

メトロコマース事件(正社員と契約社員)

(事件の概要)

東京メトロ駅構内の売店における販売業務を行う同社において、有期労働契約を締結して勤務していた原告らが、原告ら同様に売店業務に従事していた同社の正社員との間で、退職金等の労働条件に相違があったことが旧労働契約法20条に違反するとして退職金相当額の損害賠償等を求めた事件です。

裁判において、原告ら有期労働契約社員(契約社員)との比較対象となる無期契約社員(正社員)の設定をどうするか、また、契約社員と正社員との間における本給、賞与、退職金、その他の手当支給等の相違が、旧労働契約法20条(現パート・有期労働法8条、9条)に違反するか否かが争点となりました。

最高裁は、長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くし、短期雇用を原則とする契約社員に対しては退職金制度を設けないとする制度設計をすることは、人事施策上一定の合理性があり、また、正社員と契約社員との間には、職務内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があったとし、併せて、同社には契約社員から正社員への登用制度もあったことから、退職金についても不合理な労働条件に当たらないと判断しました。

日本郵便事件(労働条件の相違)

(事件の概要)

同社との間で期間の定めのある労働契約を締結して、同社が開設・運営する郵便局で勤務してきた原告らが、同社の正社員と同一内容の業務に従事していながら、下記の各種手当が支給されておらず、労働条件において正社員と差異があることが旧労働契約法20条(現パート・有期労働法8条、9条)に違反するとして、同社の正社員給与規定及び就業規則が原告らにも適用されることの確認や、損害賠償等を求めた事件です。

(東京地裁、大阪地裁、佐賀地裁にそれぞれ提訴され、二審は東京高裁、大阪高裁、福岡高裁で審理され、最高裁に上告されました)

原告らが旧労働契約法20条(現パート・有期労働法8条、9条)に違反する不合理な相違があるとした労働条件

①外務業務手当

年末年始勤務手当

③早出勤務等手当

年始期間の勤務に対する祝日給

⑤夏期・年末手当

⑥住居手当

扶養手当

夏期冬期休暇

病気休暇

⑩夜間特別勤務手当

⑪郵便外務・内務精通手当等

最高裁では、②④⑦⑧⑨(太字のもの)について不合理か否かの判断が行われ、いずれも不合理であると判断されました。

最高裁判例を踏まえた今後の実務対応

これらの最高裁判例を検討すると、賞与及び退職金とその他の待遇で、不合理か否かの判断が分かれています。これは、賞与及び退職金の性質・目的と、他の諸手当の性質・目的が異なっていることが理由として挙げられます。

・賞与及び退職金の性質=賃金の後払い的性格、功労褒賞的性格を有し、有為な人材確保・定着を目的とし、正社員の長期雇用に対するインセンティブ等の複合的な性質・目的を有する。

・他の諸手当の性質=賞与や退職金と異なり、性質や目的が単一であり、その目的に照らすと「職務の内容及び変更の範囲」の相違には関係がない。

例:夏季冬季休暇=労働を行うのが厳しい季節に、労働から離れて心身の回復をはかることを目的とする

年末年始勤務手当=多くの労働者が休日として過ごしている期間に勤務することを支給要件としている。実際の業務内容には関わりがない。

実務対応の作業手順

同一労働同一賃金を自分の会社において実施するために行うべき作業手順として以下の手順が挙げられます。

① 労働者の雇用形態を確認する。

法の対象となる労働者の有無をチェックし、雇用形態別の就業規則を作成する。

② 待遇の状況を確認する。

職務内容、職務内容・配置の変更の範囲の区別を明確化し、規定する。

③ 待遇に違いがある場合、待遇差を設けている理由を確認する。

④ ②及び③で待遇に違いがある場合に、その違いが「不合理ではない」ことを説明できるように整理する。

⑤ 待遇差が法違反に該当する場合、その是正を行う。

・基本給・賞与の支給基準の明確化

・各種手当の見直し

・非正規労働者から待遇の相違の内容及び理由についての説明を求められた場合に備えて準備する

その上で、非正規労働者の長期雇用かを防ぐための施策の採用を検討したり(職種・職務限定正社員や勤務時間限定正社員、勤務地限定正社員への転換させる制度の導入など)、正社員登用制度の導入の検討を行う必要があります。

まとめ

同一労働同一賃金の御社への導入に関して、既存の就業規則や賃金規程等の社内諸規程のリーガルチェック、見直し、制定など、当事務所でお力になれることはたくさんあります。ご不明な点やご心配な点等ございましたら、お気軽にご相談下さい。

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