懲戒解雇の手続きのポイントとは?適法となる要件等について解説

仕事ぶりが悪い社員や問題を起こす社員に辞めてもらいたいと考えている企業は多いのではないでしょうか。企業(使用者)の側から従業員との雇用契約を終了させる方法としては解雇があります。

しかし、日本の労働法令は解雇に対して厳しく規制していますから、企業が従業員を適法に解雇するためのハードルは非常に高いです。今回は、懲戒解雇について、手続きのポイントや適法となるための要件を解説します。

懲戒解雇とは

解雇とは、雇用契約を終了する旨の使用者からの一方的意思表示をいいます。解雇には、民法627条1項に基づく普通解雇と企業秩序違反に対する制裁罰として使用者が有する懲戒権に基づき行われる懲戒解雇があります。懲戒解雇は「罰」ですので、その有効要件は普通解雇と異なります。

懲戒解雇は、労働者に与える影響が非常に大きいので、特に厳しく規制されます。

懲戒解雇が適法であるための要件

判例によれは、労働者は雇用契約を締結したことによって必然に企業秩序遵守義務を負うが、企業秩序遵守義務違反に対する懲戒権は就業規則に懲戒事由及び手段を明確に定めて初めて行使し得るものとされています(最高裁三小昭和54年10月30日民集33巻6号647号)。また、労働契約15条では、使用者が行う懲戒処分につき客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして懲戒処分が無効となる旨規定されています(懲戒権濫用法理)。

以上から、懲戒解雇が有効となるための要件は下記4個に整理されます。

①就業規則に懲戒事由と手段(手続き)が明確に定められている

②懲戒事由に該当する事実が存在する

③(普通解雇ではなく)懲戒解雇の意思表示を行う

④権利濫用に当たらない

なお、労働基準法20条1項では解雇予告に関し規定されており、「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は例外的に解雇予告手当が不要となります。そして、労基法20条1項ただし書きの「労働者の責めに帰すべき事由」とは重大な義務違反・背信行為を意味するので、必ずしも懲戒事由と一致するものではありません。したがって、解雇予告手当を支払わずに即時に懲戒解雇とする場合、上記①~④に加えて⑤解雇予告の除外事由該当性が必要となります。

懲戒解雇の手続きの流れと注意点

続いて、懲戒処分を行う際の手続きのモデルケースと注意点をご紹介します。

懲戒事由に該当する事実関係の確認

まずは、懲戒の理由となる懲戒事由に該当する事実関係を確認します。特に、被懲戒者が事実を否認している場合には、このステップが非常に重要です。

事実関係の確認は、客観的証拠を軸に進めます。当事者の主張(供述)を丁寧にヒアリングし、客観的証拠に照らしてその主張が信用できるか否かという観点で事実関係を確認します。

企業は警察ではありませんので逮捕して事情聴取・証拠収集を行うことはできません。そのため、事実関係の確認には相当のリソースが割かれるでしょう。しかし、事実関係は懲戒解雇のベースとなるものですから、丁寧な事実関係の確認なくして懲戒解雇を適法に行うことは不可能です。

相当な懲戒処分の見当

事実関係が確認できたら、次に、当該行為に相応しい懲戒処分を検討します。懲戒処分には、けん責・戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇のようにいくつか種類があります。そこで、懲戒解雇を行う場合は、懲戒解雇に相当するほどの重大な背信行為といえるか否かを判断することになります。

重大ではない非違行為(ex5分の遅刻1回のみ)に対して懲戒解雇を行うと、懲戒権濫用に当たり懲戒解雇が無効となるリスクがあります。

弁明の機会の付与

被懲戒者に対し、弁明の機会を与えます。適正手続の観点からすると、弁明の機会を付与することはとても重要です。

裁判例の中には、弁明の機会を付与しないことをもって直ちに懲戒手続が違法ということはできない旨判示したものもありますが(日本ヒューレット・パッカード事件 東京地裁平成17年1月31日 判時1891-156)、弁明の機会を付与しておいた方が安全です。上記裁判例の中でも、「一般論としては、適正手続保障の見地からみて、懲戒処分に際し、被懲戒者に対し弁明の機会を与えることが望ましい」と判示されています。

懲戒解雇の通知

前述のとおり、懲戒解雇は、雇用契約を終了する旨の使用者からの一方的意思表示です。意思表示は、相手方に到達しなければその効力が発生しません。そのため、懲戒解雇の旨を被懲戒者に通知し、これを被懲戒者に到達させる必要があります。対面で通知書を交付する、被懲戒者自宅宛てに内容証明郵便で送付するといった方法が一般的です。

なお、通知書には、最低限、懲戒解雇を行うこと、懲戒解雇の理由、適用する就業規則の条文は記載すべきです。

公表

企業の規模・業種によっては、コンプライアンスやCSRの観点から、不祥事が発生した際に不祥事の内容や懲戒処分を行った旨を公表するか否か検討する必要があります。また、世間に公表するまでには至らずとも、従業員に対する注意喚起として、社内限りで公表することもありうるでしょう。

公表する場合は、名誉棄損やプライバシー侵害に当たらないよう細心の注意が求められます。懲戒解雇が適法であるからといって、当然に公表が許されるわけではありません。

企業が懲戒解雇を行うリスク

懲戒解雇は、被懲戒者である労働者に与えるインパクトが大きいです。そのため、懲戒解雇の有効性を巡って被懲戒者と労働紛争に発展する可能性が高いといえます。

仮に、訴訟において懲戒解雇を無効とする判決が出てしまうと、解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払が必要となります。訴訟の決着がつくまでには1年以上を要するケースが多いですから、バックペイの金額が高額になるリスクがあります。バックペイには原則として残業代や通勤手当等は含まれませんが、それでも被懲戒者の基本給が高額な場合はそれに比例してバックペイも高額になる可能性が高いです。

懲戒解雇について弁護士に相談するメリット

懲戒解雇を適法に行うためには入念な準備と適正手続の確保が不可欠です。また、懲戒解雇は労働者に与える不利益が大きく、労働者との労働トラブルに発展する可能性が高いです。そして、懲戒解雇が無効となった場合は高額のバックペイの支払義務が課されてしまいます。とはいえ、重大な背信行為を犯した従業員を放置しておくことも望ましくありません。

弁護士に依頼すれば、懲戒解雇の手続き、方法や事前に準備すべき事項を提案できます。また、懲戒解雇を行うに当たって作成すべき書面等、実務的な側面でのサポートも受けられます。弁護士のサポートを受けることで、懲戒解雇を適法に行えるでしょう。

まとめ

日本の労働法令は企業側に厳しい義務・規制を課していますが、中でも懲戒解雇は特に厳格なルールが設けられています。また、労働者に与える不利益が非常に大きいことから、裁判例でも懲戒解雇に関する事例は数多くあるため労働トラブルが勃発する可能性が高いと言えます。適法懲戒解雇を行い企業を守るためには、入念な準備と適正手続の実施が必要となります。

武蔵野経営法律事務所では企業の労務問題の支援に力を入れていますので、懲戒解雇の方法や手続きでお困りの場合にはお気軽にご相談ください。

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