未払い残業代を従業員から請求されたらどうするべき?
労働者側の権利意識の高まりを受けてか、企業が未払い残業代を請求されるケースが増えています。今回は、労働者から未払い残業代の請求を受けた企業がどのように対応すればよいか解説します。
未払い残業代を請求されて労働者とトラブルになってしまった際はぜひ参考にしてみてください。
1.未払い残業代とは
労働基準法では、
①1日8時間or週40時間を超える労働
②深夜(午後10時~翌朝5時)労働
③休日労働をさせた場合
基本給に所定の割増率を乗じた割増賃金を支払うことが義務付けられています。この割増賃金が、いわゆる「残業代」です。
そして、①~③の労働をさせたのに基本給しか支払っていなかったり、そもそも労働者の残業時間を集計していなかったりする場合に発生するリスクがあるのが、「未払い残業代」です。
2.未払い残業代を請求された際に確認すべきこと
労働者から未払い残業代を請求されたとしても、直ちに結論を出すのはお薦めしません。まず確認すべきことを説明します。
⑴ 時間外労働があるのか確認する
残業代は、前述の①~③のいずれかの時間外労働をさせた場合に発生します。
②(深夜労働)は、午後10時~翌朝5時の間の労働の有無を確認すればよいのでかりやすいですが、①(1日8時間、週40時間以上)と③(休日労働)は少々ややこしいです。
①は、休憩時間を除いた実労働時間が1日8時間or週40時間を超えた場合に発生する残業代です。例えば、始業時刻が9時・昼休憩が1時間・終業時刻が18時なのであれば、実労働時間は8時間(就業時間9時間-休憩1時間)なので、残業代は発生しません。
会社の就業規則等で定められている所定労働時間を超えたとしても、必ずしも残業代が発生するわけではないので注意が必要です。例えば、就業規則で始業を9時・昼休憩を1時間・終業を17時と定められている会社で、労働者が17時~18時も労働したとしても、1日8時間を超えていないので、残業代は発生しません。
会社で定めた所定労働時間ではなく、あくまで労基法で規定される1日8時間or週40時間が基準です。
③も、基準となるのは労基法です。労基法では、原則として休日は週1日のみです。
週休二日制を敷いている企業が多いですが、1週間で6日間にわたり労働したとしても、休日労働としての残業代は発生しません。
とはいえ、1週間のうち6日間労働するので、①の週40時間を超えるリスクは高まります。
⑵ 残業代を支払わなくてよいケースに該当しないか確認する
以下に該当する場合、残業代を支払う義務はありません。
ア 消滅時効が成立している
給与支払日から3年が経過すると、労働者が有する賃金請求権は時効により消滅します(給与支払日が令和2年3月31日以前のものは2年)。時効が成立していれば、未払い残業代をゼロにできる可能性もあります。時効により使用者が受けるメリットは大きく、かつ、確認も簡単ですので、まずは時効が成立していないか確認するとよいでしょう。
なお、時効が3年なのは「当分の間」です。将来的には5年となり時効が伸びますので、要注意です。
イ 固定残業代制度をとっている
“●時間分の時間外労働手当として●万円を支給する”といった固定残業代制度をとっている場合、すでに支払った賃金の中に残業代も含まれることになるので、未払い残業代は発生しません。
しかし、固定残業代制度が適法な残業代の支払と認められるためには基本給等と明確に区別でき、かつ、時間外労働に対する対価として支払われたものであることが明確になっている必要があります。単に契約書や就業規則に記載していればOKというものではないので注意しましょう。
ウ 管理職である
未払い残業代を請求している労働者が労働基準法上の「管理監督者」である場合、残業代は発生しません(※深夜労働に対する割増賃金は発生します)。
しかし、「管理監督者」に該当するためには、出退勤の裁量が広いこと・経営者と一体となって経営に参画していること・相当な給与を得ているといった要件をクリアしなければなりません。
“店長”や“部長”といった肩書さえ与えておけば「管理監督者」に該当するというものはありません。
エ 残業を禁止している
企業側が残業を禁止していたり、残業するためには許可が必要としている場合、未払い残業代が発生しない可能性があります。
どのような方法で禁止しているのか(ex労働契約書に記載している、定時になったら見回りを行い残業している社員へ退社を促す)も確認しましょう。
⑶ 未払い残業代の算定
残業時間がある場合は、実際にいくら支払わなければならないのか、未払い残業代を算定します。残業代の割増率は以下のとおりです。
①(1日8時間or週40時間を超える労働):1.25倍
※月60時間を超える部分については1.5倍
②(深夜労働):1.25倍
③(休日労働):1.35倍
例えば、始業9時・休憩1時間・終業18時・基本時給1,000円の従業員が20時まで労働したとすると、残業時間は2時間となりますから、この部分に支払うべき残業代は2,500円となります(基本時給1,000×割増率1.25×2時間)。
3.初動対応でやってはいけないこと
⑴ 放置する
業務が忙しいからといって、労働者からの残業代請求を無視していると、労働者側から訴訟を提起されるおそれがあります。訴訟が提起されてから本格的に反論すればよいケースもありますが、いずれにせよ、反論するためには準備が必要です。前述の確認を進め、就業規則、賃金規程、タイムカードや日報等の基本的な資料の収集も行いましょう。
放置・準備不足の結果、訴訟で負けてしまうと、付加金が加算されてしまい支払額が最大2倍になっています。また、判決文という公の記録で残業時間や未払残業代の金額が明記されるので、他の従業員から“自分もこれくらの残業代がもらえる筈だ”というように請求されるおそれがあります。結果、社内のモチベーション低下にもつながり、事業にマイナスの影響を及ぼしかねません。
⑵ 請求されている金額を全て支払う
逆に、言い値を払うのもNGです。支払義務の有無や適正な金額を算定せずに支払ってしまっては、企業に大きな損失をもたらしてしまいます。
また、言い値を払えば確かにその件は早期に解決できるかもしれませんが、労働者間で情報共有され、他の労働者からも高額の未払い残業代を請求されるリスクがありおます。
4.未払い残業代請求の具体的な対応方法
⑴方針の策定
未払い残業代を支払うのか、支払わないのか、支払うとしていくら支払うのか、まずは企業側の方針を決めましょう。支払わない場合は、労働者側から訴訟が提起されることも覚悟しておく必要があります。
方針を定めるうえでは、前述の確認事項をきちんと確認しておきましょう。確認が不十分だと誤った方針を策定するおそれがあり、誤った方針を策定すると企業に大きな損害を発生させてしまうリスクがあります。
⑵ 示談交渉
まずは、いくらの未払い残業代をいつまでに支払えば解決できるのか、交渉を試みます。
とはいえ、往々にして労働者側の請求は過大なので、企業が言い値を支払わない限り、示談は成立しないケースが多いです。
⑶労働審判
労働審判は、労働審判委員会(労働審判官+労働審判委員)が担当する法的手続です。3回以内の期日で迅速に審理が行われる点、裁判と異なり口頭審理がメインである点が特徴です。
労働者が労働審判を申立て、企業側は「相手方」として参加するケースが多いです。
労働審判は第1回期日が何より重要なのですが、第1回期日は「相手方」である企業の都合に関係なく決定されてしまいます。労働審判を申し立てられた場合は、スピーディーな対応が必須です。
⑷ 訴訟
通常の訴訟手続です。互いに主張や証拠を出し合い、どちらの言い分が正しいのか決着をつける手続ですが、訴訟の途中に和解を成立させることもできます。
5.残業代請求対応を弁護士に依頼するメリット
未払い残業代と一言でいっても、支払義務があるか否かを判断するための論点は多岐にわたります。弁護士に相談することで、未払い残業代を支払う必要があるのか否かを正確に判断できます。正確な判断のもと適切な方策を立てられれば、企業の損害を小さく抑えられるでしょう。
そして、正確な判断のためには法的知識はもちろんですが、時間と手間も必要です。また、労働審判や訴訟へ移行した場合は書面の作成や裁判所への出廷なども必要となります。未払い残業代の問題に時間をとられ本業が立ち行かなくなってしまっては本末転倒です。専門家である弁護士に依頼すれば、時間と手間を節約でき本業に集中できるでしょう。
6.まとめ
未払い残業代を請求されたら、まずは請求内容や確認事項の分析を行いましょう。正確な分析により、未払い残業代を大きく減額できる可能性もあります。
武蔵野経営法律事務所では中小企業の支援に力を入れていますので、労使トラブルでお困りの場合にはお気軽にご相談ください。
当事務所のサポート内容
案件の種類 | 解決法 | 費用 |
残業代請求対応 | アドバイス | 顧問契約内で対応(月額3.3万円~) |
交渉 | 着手金:22万円 報酬金:報酬算定率表に準じます | |
労働審判 | 着手金:33万円 報酬金:報酬算定率表に準じます | |
裁判 | 着手金:44万円 報酬金:報酬算定率表に準じます | |
*上記は目安となります。従業員規模、対応内容などによって費用は変動いたします。また、顧問契約締結中の企業様に置かれましては、一定程度減額して対応させていただくこともございます。初回相談は1時間まで無料とさせていただいておりますので、お気軽にご連絡ください。 |
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