企業におけるハラスメント発生時の対応方法・対策を弁護士が解説

セクハラ、パワハラ、マタハラなど、昨今の企業では様々な「ハラスメント」が発生する可能性があります。2019年には労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が成立し大きな話題を呼びました。企業にはハラスメント防止策が義務付けられ、ハラスメントが発生してしまった場合には適切に対処し損害を最小限に抑える必要があります。

今回は、企業におけるハラスメントが企業に与える影響や企業としてとるべきハラスメント対策・対応方法を解説します。

企業で発生する可能性があるハラスメント

ハラスメントにはいくつかの種類があります。まずは、どのようなハラスメントがあるのか説明します。

セクシャルハラスメント(セクハラ)

性的な言動により相手に嫌悪感を与えることです。体への接触や交際・性的関係の強要のみならず、性的な冗談、食事にしつこく誘うといった言動もセクハラに該当する可能性があります。

男女雇用機会均等法11条1項により、企業にはセクハラ防止措置を講じる義務が課されています。

パワーハラスメント(パワハラ)

職務上の優越的な関係を利用して必要かつ相当な範囲を超えた言動を行うハラスメントです。

例えば、同僚の前で無能扱いする、先輩や上司に挨拶しても無視される、膨大な量の仕事を押し付けられるなどがパワハラに当たります。

労働施策総合推進法30条の2第1項により、企業にはパワハラ防止措置を講じる義務が課されています。

マタニティハラスメント(マタハラ)

妊娠・出産・育児に関するハラスメントです。例えば、妊娠を上司に報告したら退職を求められる、育児休業を取得したり短時間勤務をしていると「周りは迷惑している」といわれるなどがマタハラの具体例です。

なお、マタハラというと女性のみが被害者となるイメージですが、父親が被害者となる「パタハラ」も存在します。出産や育児に関するハラスメントの保護対象は女性のみではないので注意しましょう。

男女雇用機会均等法11条の3第1項や育児介護休業法25条1項により、企業にはマタハラの防止措置を講じる義務が課せられています。

ハラスメントの発生が企業に与える影響、法的責任

ハラスメントが企業に与える影響は甚大です。どのような影響があるのか説明します。

レピュテーションリスク

昨今は各種ハラスメントに対する問題意識が上がっていますから、“ハラスメントが発生した企業”と世間に報道・リークされると企業の社会的評価(イメージ)がダウンしてしまいます。

そして、このリスクはハラスメントの被害者が精神障害を発症した場合には格段に上がります。精神障害を発症し労災と認定されてしまうと、世論は“その企業のハラスメントによって労働者が精神障害を発症した”と考え、企業を批判します(なお、労災認定は業務起因性があるという労基署の判断ですから、訴訟で判断が覆る可能性があります)。真偽はともかく、世論の批判の対象となってしまった時点で企業の社会的評価は大きく損なわれます。精神障害を発症した労働者が自殺するに至ってしまった場合は、より深刻でしょう。

なお、会社の不正発覚と同時に社内実態が明らかになり、結果としてハラスメントが発覚するという事態もありえます(2023年7月現在、某中古車販売会社の不正が大きな話題を呼んでいますが、この会社は不正のみならずパワハラが横行していた職場環境についても大きく報道されています)。この場合もレピュテーションリスクは跳ね上がります。

損害賠償責任

ハラスメントが発生した場合、就業環境改善義務違反等を理由に損害賠償責任を負う可能性が高いです。

特に、ハラスメント被害者が自殺をした場合には損害賠償額が高額になります。

職場でハラスメントが起きた場合に企業がとるべき対応

後述しますが、あらかじめ各種ハラスメント防止規程を作成しおくべきです。そして、ハラスメントが発生してしまった場合には規程に従い対応していきます。

一般的には、まずは相談者(被害者)からヒアリングし、本格的な調査が必要な事案か否かを決定します。調査が必要であれば、人事部等を筆頭に調査チームを結成し、事実関係を精査するため相談者のみならず加害者(とされている者)・第三者にもヒアリング等の調査を行います。ヒアリング自体がハラスメントとならないよう注意しましょう。「あなたの勘違いじゃないの?」「それくらい我慢しなきゃ」等の配慮を欠いた発言は、それ自体がハラスメントであり問題を大きくさせるだけです。

調査により事実関係が明らかになったら、事案に応じた適切な対応(ex懲戒処分)を行い企業としての対応終了、となります。

企業が行うハラスメント防止策

続いて、ハラスメントの発生を未然に防ぐための防止策をご紹介します。

ハラスメント防止規程の策定

基本的な防止策として、各種ハラスメントの防止規程は必須です。上述のとおり、企業には法令でハラスメント防止措置が義務付けられているため(パワハラ防止法は2020年6月から大企業に適用されており、2022年4月からは中小企業にも適用されているためどの企業でもハラスメント対策が義務付けられています。)、防止措置の一環として規程の策定はマストでしょう。

また、一度定めておけば社内研修での参考資料やハラスメントが発生してしまった場合の対応マニュアルとしても使用できるため大きなメリットがあります。

社内啓発

また、企業側・労働者側双方がハラスメントについて正しい知識を持つことも有効です。社内報、イントラネット、社内研修等を活用し、継続的に社内啓発を行うことがハラスメント防止に繋がります。

特に、管理職になったばかりの従業員や年配の従業員で昨今の社会情勢・人権意識の変化に順応できていないと見られる従業員は、ハラスメントの加害者になり易い傾向にあります。管理職のみを対象として研修を行う等、企業としても集中的に啓発を行う必要があるでしょう。

職場環境の維持・改善

そして、何よりも、周囲と円滑かつ適切なコミュニケーションをとれるよう、日ごろから職場環境の維持改善に取り組むことが重要です。正しい知識を持ち、円滑かつ適切なコミュニケーションがとれていれば、そもそもハラスメントは発生しません。

定期的に従業員に対しアンケート調査を行ったり労使双方での意見交換の場を設けたりして職場環境の維持・改善に努めることで、ハラスメント防止に繋がるとともに職場環境の改善が進み企業全体の生産性向上も実現できるかもしれません。

企業のハラスメント対応を弁護士に相談するメリット・依頼できること

ハラスメントが発生すると、企業には大きな損害が発生します。弁護士に依頼することで、その損害を最小に抑える、あるいはそもそも発生を未然に防ぐことができます。

例えば、予防法務としてはハラスメント防止規程の策定、研修(セミナー)の実施を弁護士に依頼することでより洗練された防止策を講じられます。発生してしまった後の段階では、労働者側との交渉窓口となったり訴訟対応をすることで企業が被る損害を最小限に抑えられるでしょう。

まとめ

企業にはハラスメント防止措置が義務付けられていますし、ハラスメントが発生してしまった場合には迅速かつ適切に対応する必要があります。ハラスメントを放置していると、企業が被る損害が拡大してしまうだけでなく他の従業員にも悪影響を及ぼしてしまいます。とはいえ、ハラスメント防止措置にせよハラスメント発生時の対応にせよ、法令を遵守した適切な対応が求められます。

武蔵野経営法律事務所では企業の労務問題の支援に力を入れていますので、ハラスメントへの対応でお困りの場合にはお気軽にご相談ください。

当事務所のサポート内容

当事務所はハラスメント対応窓口のサポートを月額3.3万円の顧問プランより承っております。

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