経営者特有の相続問題

もう70歳過ぎたし、そろそろ引退かな。

もし自分がいなくなったら会社はどうなるのだろう?

会社経営をされている方に相続が発生すると、特有の問題、すなわち、会社の経営権を誰が承継するのかといった問題に加え、相続発生後、会社の運営が従前どおりに進むのかといった、大きく二つの問題が生じます。

1 会社経営者の相続財産特有の問題

代表者個人名義の預貯金や、代表者個人が所有者となっている不動産等は相続財産となり、遺言がなければ、法定相続人で遺産分割協議を行います。ここは一般的な相続と同じです。

代表者であれば、会社に対し、お金や土地といった資産を貸し付けている場合もありますから、それら代表者個人の財産については、当然、相続財産となります。

 

もっとも、会社の代表取締役、社長といったポスト、いわゆる会社の経営権や、会社が所有する預金や土地といった財産は、相続財産とはなりません。

会社というのは、法人という代表者個人と異なる別個の権利帰属主体として扱われていますので、代表者個人の所有物ではないからです。

 

ただ、経営権を相続人が引き継ぐことが多いのは、会社の株式を相続するからです。この株式の相続、経営権の相続という点が、まさに、会社経営者に特有の問題を発生させる原因です。

 

2 株式の相続、経営権がどうなるのか

株式を所有する経営者、社長が亡くなると、あらかじめ、遺言を作成していなければ、その株式は当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象となりますが、遺産分割協議が完了し、株式を相続する相続人が確定するまでの間は、相続人全員が共有する状態になります(法的には、準共有といいます)。

具体例を見てましょう。

 

オーナー社長が会社の株式を100株所有している場合で、相続人(奥さんと息子さん)が2人いたとします。この場合、1人50株ずつ取得するのではなく、100株を、法定相続分に応じて2人で共有するということになるのです。

会社の意思決定は、株式の数に応じた多数決(原則として過半数)によって行われます。

たとえば、会社が発行している全株式が150株で、100株を社長が、50株を専務が所有している場合には、100株を所有する社長の意思決定が、すなわち、会社の意思決定になるということです。

 

では、この事例の場合で、相続が発生して、社長の100株が相続人に相続されると、どうなるでしょうか。

株式100株が奥さんと息子さんの二人に単純に分割されるわけではないので、奥さんが50株、息子さんが50株、そして、残りの50株を有する専務の3名による多数決になるわけではありません。

社長が所有していた100株については、奥さんと息子さんとの遺産分割協議が完了し、当該株式をどちらが相続するかが確定するまでの間は二人の共有状態になるため、まずは、奥さんと息子さんとで話合い、100株についての権利行使に関する意思決定を行い、そのうえで、50株を有する専務とで多数決を行うのです。

つまり、株式を所有する経営者の相続が発生すると、もともとは経営者が実質的に一人で行なっていた意思決定自体を(相続人が複数いる場合は)複数の相続人で行う必要があり、非常に複雑な状況となってしまうのです。

 

3 相続後の会社の運営

経営者の株式を誰に相続させるか、遺言等で事前に取り決めておかず、株式が共有(準共有)の状態になると、相続人間の意思統一ができず、会社の経営が滞ってしまうという事態に陥りかねません。

 

このような事態に備えて、会社法106条では、株式が複数人の共有となるときは、会社に対して権利を行使する者を1人定めて届け出る必要があるという手当てがされています。

また、相続人間で意見が分かれ、会社法106条の権利行使者の届け出ができない事態もあり得るので、最近の判例では、株式を相続した相続人の過半数の意向によって、会社への権利行使ができるという手当てもなされています。

 

このような会社法や判例の手当てによっても、株式を1人の人に集中させておかないと、会社としての意思決定ができずに、会社の経営が滞ってしまうという事態に陥りかねません。

 

4 解決方法~相続でなく「争続」とならないために~

(1)事前に遺言のご準備を!

一般的に相続対策には遺言を作成しておくことと言われていますが、経営者の相続には、会社の株式(経営権)の相続という特有の問題が生じますので、この辺りの事情を反映した遺言書を作成する必要があります。

そのためには、会社経営者の相続特有の事情を踏まえて、関係者から充分にヒヤリングを行い、将来、不満を抱える人が少ないような遺言書を作成する必要があります。

注意しないといけないのは、せっかく遺言書を作成していても、経営者特有の相続事情を踏まえずに定型的な遺言書を作成しただけでは、不満を抱えた相続人が遺言書の効力を争ったり、遺留分の請求を行うなど、「争続」を誘発することにもなりかねません。

特に、経営者の場合には、相続の問題によって会社の経営をストップさせてしまうおそれがありますので、遺言の重要性は一層高いものとなります。

 

(2)遺言がない場合は、協議・調停を!

遺言がない場合には、相続人がどの相続財産を相続するのかということを決める遺産分割協議を行うこととなります。

一部の相続人が納得せず、紛糾することも多いので、経営者特有の相続事情に詳しい弁護士等の専門家に相談し、遺産分割協議を進めるのが良いでしょう。

 

感情的な対立が進んでしまった場合には、調停という裁判所を通じた話し合いの場を設けることも一つの方法です。

 

このように、経営者の相続には、特に株式(経営権)の問題など、特有の相続問題が生じます。

当事務所では、代表弁護士の加藤が中小企業診断士の資格を取得しており、豊富な人脈や会社経営に関する知見を有しておりますので、単なる相続案件としてではなく、会社経営の観点からもご支援することが可能です。是非、お気軽にご相談下さい。

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