2022年7月度(前期)

戻り梅雨で天候不順が続き、暗いニュースの多いこの頃ではございますが、顧問会社の皆様にはお変わりなく、ご清栄のことと存じます。

雨の恵みを受けた農作物が豊かに育つような明るいニュースがこれから先多くなることを祈念しております。

さて、今月は「法定時間外労働の割増率」について情報を提供いたします。

2010年4月1日付け労働基準法の改正により、1か月60時間を超える法定時間外労働の割増率が「25%以上」から「50%以上」へ変更になりました。

ただし、中小企業に関しては、改正後も適用の猶予期間が設けられていましたので、従来通り「25%以上」で計算することが許されていました。

しかし、この猶予期間が終了し、2023年4月1日からは中小企業も法定時間外労働の割増率の「50%以上」が適用されます。来年4月1日以降は、時間外労働の計算にご注意下さい。

 

1 1か月60時間超えの対象になる法定時間外労働とは

割増率が50%以上になる法定時間外労働は、法令で定められている労働時間の限度時間(原則1日8時間、週40時間)の合計が60時間を超えた時間数からです。60時間未満の場合は、従来どおり割増率25%以上です。

(例)法定休日が日曜日の会社で、平日(月曜日~金曜日=計23日間)毎日3時間法定時間外労働をし、所定休日の土曜日に4時間労働し、法定休日の日曜日に2時間労働した場合

 

法定時間外労働時間数:3時間×23日+4時間=69時間(平日の法定時間外労働時間数)+4時間(所定休日の法定時間外労働時間数)=73時間

法定休日労働時間数=2時間

※法定時間外労働の割増賃金率:25%

法定休日労働の割増賃金率:35%とする。

 

※上記例の場合、2023年4月1日以降の法定時間外労働手当の計算は、

60時間を割増賃金率25%で計算し、13時間(73時間‐60時間)を割増賃金率50%で計算します。法定休日労働の2時間は割増賃金率35%で計算します。

 

2 割増賃金の代わりに有給休暇での対応も可能(代替休暇)

法定時間外労働が60時間を超えた時間数に応じて、賃金のかわりに給与を支給する有給の休暇(代替休暇)を取得させられます。これは、法令等で定められている年次有給休暇とは別になります

なお、賃金のかわりに有給の休暇にできるのは、従来の割増率と改正後の「50%」の差額分のみです。60時間を超えた時間数すべてを有給の休暇とはできませんので注意が必要です。

(計算方法)

(1か月の法定時間外労働時間数-60時間)×換算率=代替休暇の時間数

 

代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率-代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率=換算率

 

(例:60時間を超えた時間に対する割増賃金率を0.5、60時間以下の割増賃金率を0.25とし、80時間法定時間外労働をした場合)

換算率:0.5-0.25=0.25

代替休暇の時間数:(80時間-60時間)×0.25=5時間

※上記例の場合、法定時間外労働80時間のうち、60時間は割増賃金率0.25で計算し、15時間を割増賃金率0.5で計算します。残り5時間については、対象従業員が希望した場合、代替休暇として取得させることができます。

 

3 代替休暇制度の導入には労使協定が必要

代替休暇制度を導入するときは、労使協定の締結と、就業規則への制度の記載が必要です。労使協定で決めておかなければならないことは以下になります。

(労使協定で決めておくこと)

1 代替休暇の時間数の具体的な算定方法(換算率のパーセントなど)

2 代替休暇の単位(1日、半日、1日または半日など)

3 代替休暇を与えることができる期間(60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内まで)

4 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

 

代替休暇制度の導入は事業場単位(本社、支店など)で、従業員個人単位で制度の導入はできません。また、代替休暇の制度があったとしても、代替休暇を取得するかどうかは従業員の意思によって決められます。

 

4 代替休暇の単位で時間数に端数が出た場合

他の年次有給休暇などと合わせて利用もできます。ただし、従業員が他の制度の利用を希望したときに限ります。

(取得例)

※1日の所定労働時間が8時間で、代替休暇の時間数が10時間ある場合

①10時間のうち8時間を1日分の代替休暇として取得し、端数2時間については割増賃金(割増賃金率50%)で支払う。

②10時間のうち8時間を1日分の代替休暇として取得し、端数2時間については、他の年次有給休暇と併せて、半日の休暇を取得する

 

 

5 深夜労働・法定休日の割増賃金率

深夜労働(22:00~翌朝5:00)の時間帯に1か月60時間を超える法定労働時間外労働をさせたときは、割増賃金率は「75%以上(深夜割増賃金率25%以上+時間外労働割増賃金率50%)」になります。

なお、法定休日(4週4日の休日)は、法定時間外労働と別に算定するため「1か月60時間」には含まれず、法定休日労働の割増賃金率は35%のままです。ただし、法定休日以外の会社の休日に労働したときは「1か月60時間」に含まれるため、60時間を超えた時間について割増賃金率が「50%以上」になります。

 

6 36協定の締結が必要

法定時間外労働が発生するときは、事前に管轄の労働基準監督署へ36協定の届出が必要です。36協定の対象期間は1年間のため、2023年4月1日(猶予期間が終了した日の翌日)を含むときは以下のような記載が必要です。

ただし、法定時間外労働が60時間を超えるときに限ります。

【36協定への記載例】

例:2023年4月1日以降、法定時間外労働が60時間を超えたときは超えた時間に対して割増賃金率50%とする

 

なお、就業規則に割増賃金率が記載されている場合、就業規則の修正も必要です。

 

7 2023年4月1日までに企業が行うこと

割増賃金率の変更は、企業にとって大きな負担になります。

また、時間外労働が1か月45時間を超えて長くなればなるほど、脳・心臓疾患を発症するリスクが高くなり、業務との関連性が強くなります。発症すると労災認定されるケースや発症後の後遺症や死亡するケースもあります。

割増賃金率アップは、長時間労働を抑制し、従業員の健康の保持、環境の整備などの課題を解消するために行われています。長時間勤務が常態化している事業所におかれては、この機会に業務の効率化をはかられることをおすすめいたします。

 

【業務効率化の例】

・業務の見直し(効率化をし、時間短縮できるか)

・時間外労働になっている要因の洗い出し

・就業規則の変更

・雇用契約書の変更

・残業時間の管理(ムダがないか) など

 

8 随時改定の対象になるのか

4月1日以降に賃金増率が50%以上になっても、社会保険の随時改定の対象にはなりません。随時改定とは、毎月の社会保険料の基準となる標準報酬月額を見直すための手続きで、固定的賃金(基本給、諸手当など)が変更し、標準報酬月額に2等級以上の差がでたときに発生します。

割増賃金率の変更は、固定的賃金にあたりません。ただし、割増賃金率のアップに伴い固定残業代(みなし残業代)などが変更になったときは、随時改定の対象になる可能性があります。

 

9 まとめ

割増賃金率50%以上の猶予期間の終了により、賃金のみでなく社会保険料、労働保険料(労災保険、雇用保険)の負担が増えます。

「まだ時間があるから」「来年のことだから」など対応を後回しにしていると、準備などが間に合わなくなる可能性があります。長時間労働の見直しを行うよい機会にもなりますので、後回しにせず、早めに準備をすすめることをおすすめします。

顧問会社様におかれまして、36協定の作成、就業規則の修正などのご相談がございましたら、どうぞお気軽にお声掛け下さい。

また、業務効率化を行う際の労働時間短縮に資する機器や、勤怠管理システムの導入などに関して、厚生労働省から支給される助成金(働き方改革推進支援助成金)もありますので、こちらの申請サポートにつきましても、ぜひ弊所宛てお問い合わせ下さい。