2021年5月号
「新型コロナウイルス感染症への対応について」
新型コロナウイルス感染症の猛威が収まりません。4月上旬以降、日本は、感染の波の「第4波」中にありますが、この第4波の特徴として、感染力の強い「変異ウイルス」の拡大と、若い世代の重症化の傾向があげられます。
第3波においては、全体の重症者数に占める50代以下の割合は1割弱だったのに対し、第4波においては2割強を占めるようになっています。働き盛り世代の方の新型コロナウイルス感染と重症化傾向の拡大は、勤務先へ与える影響が大きいです。
新型コロナウイルス感染症への対策として、医療従事者や高齢者の方々へのワクチン接種が始まりましたが、働き盛り世代の方々への接種はまだまだ先になりそうです。
そこで、顧問会社様におかれましては、既に新型コロナウイルス感染症への対策のご準備はなさっていらっしゃると思いますが、ご参考までに情報提供をさせていただきます。
【休業手当の支給の要否】
新型コロナウイルス感染症に感染したことが確認されると、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます)が適用され、都道府県知事が感染した人に対し宿泊療養・自宅療養の協力を求め、従わない者には入院の勧告と入院措置を取ることができます。つまり、都道府県知事から無症状病原保有者に対しても、必要に応じて、一定期間の就業制限をすることができるのです。
この感染症法に基づく感染者の就業制限による休業については、民法536条2項の「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」にあたらず、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」にもあたりませんので、賃金や休業手当(平均賃金の60%以上)を支給する義務はありません。
ただし、それ以外の就業禁止、たとえば使用者による(感染者以外に対する)感染拡大防止のための自主的な休業や、感染者への就業制限期間経過後の休業命令などについては、原則として休業手当の支給が必要になります。
なお、感染者の就業制限による休業に関しては、一定の要件を満たしていれば、健康保険の「傷病手当金」の支給対象になりますし、業務上や通勤時の感染であれば、労災保険の「休業補償」の対象となり得ます。
また、要件を満たしていれば、雇用調整助成金の支給対象にもなり得ます。
【休暇の種類と取得】
新型コロナウイルス感染症対策の対象となる「休暇」には、①年次有給休暇、②(就業規則等に規定があれば)病気休暇、が考えられますが、年次有給休暇について、労働者が自主的に新型コロナウイルス感染症に関して年次有給休暇を取得することは差し支えありませんが、使用者が年次有給休暇を一方的に取得させることはNGです。
【社員やその家族が感染した場合の社内対応】
社員自身が新型コロナウイルスに感染した場合、症状の有無にかかわらず、速やかに会社に自己申告できる体制を整えておきます。社員自身だけではなく、社員の同居する家族が新型コロナウイルスに感染した場合も、社員は濃厚接触者になりえますので、この場合にも、症状の有無に関係なく、速やかに会社に自己申告できる体制を整えておく必要があります。
社員から報告があった場合には、直ちに自宅待機させることが必要かつ合理的な対応です。
自宅待機者には、14日程度の様子見と1日2回の体温検温と症状チェックを指示している企業が多いようです。
また、熱・咳など新型コロナウイルスへの感染が疑われる症状が社員に現れた場合にどのように対応するのか、社内でルール化しておく必要もあります。
【新型コロナウイルス感染を疑われる症状が社員に出た場合の対応例】
① 症状が出た社員は、国が制定した「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」を参照の上、各自で医療機関を受診する。
② PCR検査が必要と診断された場合、検査を受け、検査結果を会社に報告する。
【社内ルールを策定する必要性のある事項例】
① PCR検査費用を社員の個人負担とするのか、会社負担とするのか。
② 新型コロナウイルス感染を疑われる社員を自宅待機とさせ、陰性だった場合、通常の病欠として取り扱うのか、別途ルールを作成するのか。
③ 社員の家族が感染していて、社員が濃厚接触者にあたる場合の自宅待機の期間は何日間休業とするのか、また、在宅勤務として取り扱うのか(有給)、それとも出勤停止・休業命令とするのか(休業手当)。
④ 感染の社外公表をどうするか。
⑤ 消毒の実施の手配方法。
などの社内ルール策定の必要性が考えられます。
社内ルール策定に際して、法律的なアドバイスが必要であれば、当事務所あてお問い合わせください。ケース・バイ・ケースのご相談に応じます。
【社員が感染したときの一般的な流れ】
社員が感染した場合にどのような対応が必要になるのか、ご参考までに一般的な流れをご説明します。
① 社員に新型コロナウイルスの陽性反応が出た
↓
② 医師が保健所に連絡
↓
③ 保健所から、社員が勤務する事業所に積極的疫学調査実施の連絡がくる
・必要に応じて消毒命令がなされる
・感染者の行動履歴や濃厚接触者の特定がなされる
社員に感染者が出た場合、事業所管轄の保健所から調査が行われます。
必要に応じて、事業所の消毒や感染者が触れた消耗品の廃棄等について指導がなされます。この消毒の実施費用は会社負担となります。消毒作業に専門業者が必要な場合も、会社が自力で対処可能な場合もあり、保健所の命令の内容によります。事前に消毒を依頼できる業者を調べておくことも必要かと思われます。
また、濃厚接触者特定のための保健所調査に対して会社があらかじめ準備しておくこととして、
① 担当者の選任・周知(担当者間の情報共有の手段も決めておく)
② 各部署のフロアの見取り図(座席表を含む)の作成
③ 社員リストの作成(氏名・生年月日・年齢・住所・電話番号を記載)
④ 社員の自宅を管轄する保健所が設置した「新型コロナウイルス感染相談センター」の連絡先の確認
が挙げられます。
新型コロナウイルス感染者が社内に出た場合にどう対応するのか、あらかじめシュミレーションし、影響を最小限度に収められるよう対策を講じることが必要です。
職場での対応チェックリストもご提供できますので、必要な顧問会社様は担当:宮野宛ご連絡下さい。
【濃厚接触者とは(ご参考)】
ご参考として、濃厚接触者の定義をご説明します。
「患者(感染確定者)の感染可能期間」とは
発熱、せき、全身の倦怠感など新型コロナウイルスを疑う症状が出た2日前から隔離開始までの間
「濃厚接触者」とは
患者(感染確定者)の感染可能期間中に接触した者のうち、次の範囲に該当する者
① 患者と同居または長時間の接触があった者(車内・航空機内を含む)
② 感染防護なしに患者を診察・看護・介護していた者
③ 患者の気道分泌液・体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
④ 手で触れることのできる距離(目安1メートル)で、必要な感染予防策なしで患者と15分以上接触があった者
なお、新型コロナウイルス感染症への対策として、社内でテレワークの導入をお考えの顧問会社様もおありかと思います。
国もテレワーク推進のため、令和3年4月1日より「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」を創設し、テレワークを導入・実施し、労働者の人材確保や雇用管理改善の効果をあげた中小企業事業主に助成しています。
次回のニュースレターで「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」についてご説明する予定です。テレワークの導入をお考えの顧問会社様がいらっしゃいましたら、ぜひ当事務所にご連絡下さい。助成金受給申請につきご相談とお手伝いをさせていただきます。