2022年6月度(前期)

例年より少し早く関東地方は梅雨に入ったようですが、顧問会社の皆様にはお変わりございませんでしょうか。湿度が高く、過ごしにくい日々がしばらく続きますが、皆さまどうか健やかにお過ごし下さい。

さて、今月は「無期転換ルール」について情報を提供いたします。無期転換ルールに関して、リスクになりがちな無期転換前の雇止めや無期転換回避策を中心に、今後の有期契約労働者の雇用管理についてご説明いたします。

 

1 無期転換ルールとは

無期転換ルールとは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約(※1)が更新されて通算5年を超えたときに、有期契約労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)(※2)に転換されるルールです。

通算5年のカウントは平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約が対象ですので、平成30年(2018年)4月から無期労働契約への申込権が本格的に発生しています。(労働契約法第18条:平成25年4月1日施行)

 

※1 有期雇用契約とは、期間を決めて雇用される契約社員やパート、嘱託社員等との間の雇用契約をいいます。

※2 無期雇用契約とは、雇用形態(正社員、パート、アルバイトなど)に関係なく、雇用契約の期間が定められていない契約(いわゆる「期間の定めのない雇用契約」)をいいます。

 

2 有期契約労働者が無期転換を希望する理由とは

無期転換ルールに関する企業側のメリットとして、従業員の安心感や定着率の向上があげられます。従業員側のメリットとしては、雇用が安定し、無期労働契約になることで様々なキャリア展開ができることがあげられます。

無期転換申込権が本格的に発生した、2018年から2019年の2年間に無期転換した人数は約158万人と推計されており(常用労働者5人以上の事業所が調査対象)、そのうちの約4分の3にあたる118万人が「無期転換ルール」により無期転換したと推計されています。

なお、厚生労働省の調査によると、有期契約労働者が無期転換を希望する理由は以下のとおりです。

・雇止めによる雇用の不安がなくなる

・長期的なキャリア形成の見通しや、将来的な生活設計が立てやすくなる

・無期転換後の賃金や労働条件の改善が期待できる

・社会的な信用が高まる など

また、無期転換を希望しない理由としては、

・定年後の再雇用者で高齢だから

・契約期間が無期になるだけで自身にメリットがない

・無期労働契約ではなく正社員になりたいから

などがあがっています。

 

3 無期転換申込権の対策で生じるリスク

有期労働契約では、あらかじめ企業と労働者との間で決められた契約期間が終われば、雇用契約は終了します。

企業が有期契約労働者を雇用する理由としては、

・業務量の中長期的な変動に対応するため

・人件費(賃金、福利厚生など)を低く抑えるため

・業務量の急激な変動に際して雇用調整ができるようにするため

などがあげられます。

また、無期転換ルールに対応する上では、

・正社員と無期転換した従業員との間の仕事や働き方を踏まえた労働条件のバランスが取りにくい

・業務量の変動に伴う人員数や労働時間等の調整が難しくなる

などの企業課題があります。

 

企業にとって有期労働契約の方が雇用をしやすいという側面もあり、無期労働契約への申込権の対策のため、無期転換前の雇止めや無期転換回避策を社内で講じる場合もありますが、労使トラブルに発展しやすく、企業側が不利になるおそれがあります。

 

4 無期転換申込権の対策上生じるリスク

  • 無期転換申込権が発生する直前の雇止め

雇止めとは、契約更新を繰り返し、一定期間雇用を継続したにもかかわらず、突然、契約更新せず期間満了をもって退職させることです。

労働者に、「当然、契約更新されるもの」と期待が生じている状況で、無期転換申込権の発生を回避するために雇止めを行った場合、他に雇止めを行う合理的な理由がないときは、その雇止めは客観的合理性・社会的相当性が認められず、雇止め無効と判断されるおそれがあります。

 

  • 無期転換申込権の発生前に企業が一方的に更新上限を設定する

契約期間の更新上限を設定すること自体は違法ではありません。

更新上限を設定する意向が企業にある場合、更新上限の有無が不明確だと、労働者が契約更新や無期転換の期待を抱く可能性があるため、最初の契約締結時に更新上限を明確に提示することをおすすめします。

なお、最初の契約締結の後、無期転換申込の発生回避のため企業が一方的に更新上限を設定すると、契約更新や無期転換の期待をもつ労働者にとって不利益をもたらすことになります。そのため、こういった企業の一方的な更新上限の設定による雇止めは、客観的合理性・社会的相当性が認められず、雇止め無効と判断されるおそれがあります。

なお、雇止めが無効と判断された場合には、従業員側より、本来得られたはずの給与が得られなくなったとして、給与補償などの損害賠償請求リスクも生じる可能性があります。

 

  • 無期転換後の労働条件について企業が一方的に「別段の定め」を設け、無期転換の申込みの抑制をする

無期転換後の労働条件について、就業規則などで「別段の定め」がない場合、契約期間以外の労働条件については、無期転換前の労働条件と同一となります。

就業規則などで「別段の定め」を設けた場合は、就業の場所や業務内容などを見直すことができますが、「別段の定め」を設けた場合であっても、それが無期転換の申込抑制を目的とした不利益な労働条件の場合は、労働条件の設定・変更の合理性が認められず、無効になる可能性があります。

 

  • 無期転換申込みを行ったことを理由とする不利益な取り扱い

企業が独自に年齢制限を設けるなど、無期雇用転換の対象者について条件を定めることはできません。また、企業は従業員からの申込みを拒むことはできません。

なお、無期転換申込を行ったことによる不利益な取り扱いの例として、労働条件の引下げやハラスメント、解雇などがあげられますが、これらの行為はもちろん禁止されています。

 

5 今後、企業が行うべき有期契約労働者の雇用管理とは

今後、企業が行うべき雇用管理のポイントは以下のとおりです。

・有期契約労働者の契約期間や更新時期を管理する

・契約更新の判断基準を明確にする

・更新上限の設定を検討する

・無期転換時に適用される就業規則や契約書の見直し

・無期転換権発生の周知・説明方法のマニュアルやフローの作成をする

・更新の判断基準・更新上限・無期転換時の条件について契約締結時・更新時に個別説明する

・有期契約労働者に対し、5年超の契約更新や無期転換の期待を抱く発言は避ける など

 

6 今後見直しが検討される無期転換ルールの内容とは

厚生労働省において、今後も無期転換ルールの運用見直しが議論されています。将来、無期転換ルールに関して義務付けられる可能性のある事項は以下の通りです。

・無期転換申込機会の通知を行うことの企業への義務付け

・無期転換申込について労働者への意向確認や疑問への対応の義務付け

・契約期間の更新上限の有無とその内容を労働条件へ明示することの義務付け

・無期転換申込みを行ったことや転換申込みを妨害する不利益取扱いの禁止  など

 

7 まとめ

今後、長期的なキャリア形成や雇用の安定をもとめて、無期転換ルールの利用を希望する従業員もでてくることが考えられます。

なお、通算5年を超えて雇用契約を更新している有期契約労働者は、企業にとっても重要な戦力ではないでしょうか。

今回の記事を参考に、貴社における有期契約労働者の雇用管理状況についてご確認されることをおすすめします。

顧問会社様におかれまして、「無期転換ルール」など雇用・労務管理についてご相談がございましたら、お気軽に弊所宛てご連絡下さい。