2022年2月号

暦の上では春を迎えました。まだまだ寒い日が続いていますが、日中ふとした時に陽ざしが春めきはじめているのを感じます。花粉症の方には憂鬱な季節かと存じますが、春に向かっている毎日を楽しみたいですね。

今月のニュースレターは、4月1日から中小事業主にも義務化される、パワーハラスメント防止措置についてご説明いたします。

 

1 パワーハラスメント防止法とは

令和元年6月5日に、労働施策総合推進法が改正され、職場におけるパワーハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることが義務付けられました。また、併せて、パワーハラスメントについて、事業主に相談したこと等を理由に解雇その他の不利益な取り扱いをすることも禁止されました(労働施策総合推進法第30条の2)。

すでにこの法律は、令和2年6月1日から施行されていますが、中小企業事業主に対しては、令和4年3月31日までは「努力義務」となっています。しかし、同年4月1日からは義務化されますので、顧問会社の皆様におかれましても、早目のご対応をおすすめいたします。

 

2 職場におけるパワーハラスメントとは

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素を全て満たすものが該当します。

① 優越的な関係を背景とした言動

会社の業務を遂行する際に、その言動を受ける立場の人が、その言動を行う者に対して、抵抗したり、拒絶することが難しい関係性にある状況でなされた言動であること。

つまり、基本的には、上司から部下になされる言動が対象になりますが、状況によっては、同僚からの言動や、部下からの言動も対象になり得ます。

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

社会通念上、その言動は明らかに業務上必要性がない、又はその言動の内容が不適切であるもの。

③ 労働者の就業環境が害される言動

「社会一般の労働者」が、仕事を行う上で見過ごせず、業務の支障になると感じるような言動であること。

 

つまり、客観的にみて、業務上必要で、適正に行われる業務指示や指導についてはパワーハラスメントに該当しません。

ただし、個別の事案の判断については、パワーハラスメントを受けたと申し出た従業員の心身の状況や、受け止め方にも配慮したうえで対応することが必要であり、また、いわゆるグレーゾーンの言動についての判断には注意が必要です。

 

3 パワーハラスメントに該当すると考えられる6類型

パワーハラスメントに該当すると考えられる代表的な6類型です。ただし、この6類型に当てはまるから必ずパワーハラスメントだという訳ではありません。個別の事案については、詳細に検討し、パワーハラスメントに当たるか否かの判断をすることが大切です。

① 身体的な攻撃(暴行、傷害)

←誤ってぶつかる等は該当しない。

② 精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言)

←会社の秩序を乱した従業員に対して、一定程度厳しく注意した場合は該当しない。

③ 人間関係からの切り離し(隔離、仲間外れ、無視)

←合理的な理由があり、一時的に別室で業務を行わせる等は該当しない。

④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことの強制、業務の妨害)

←業務の繁忙期に業務の必要性から、通常より一定程度多めの業務を命じることや、従業員の育成のため、現状よりも少し高いレベルの業務を任せること等は該当しない。

⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた低い程度の仕事を命じることや、仕事を与えないこと)

←従業員の心身の状態や、能力に応じて、一定程度業務内容や量を軽減することは該当しない。

⑥ 個の侵害(プライバシーに過度に立ち入ること。従業員の性的指向や性自認、不妊治療等機微な個人情報について、本人の了解を得ずに、情報を暴露することも含まれます。)

←労働者への配慮を目的として、ヒアリングを行うことや、労働者の了解を得たうえで、機微な個人情報を、必要な範囲で情報共有することは該当しない。

 

4 中小事業主が、令和4月1日以降講ずべき措置

令和4年4月1日以降、中小事業主もパワーハラスメント防止措置を講じなくてはいけません。以下、具体的に講じるべき措置をご説明いたします。

なお、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法も改正されており、職場におけるセクシャルハラスメントや、妊娠・出産・育児休業に関するハラスメント(いわゆるマタニティーハラスメント)の防止対策も強化されています。顧問会社様におかれましては、パワハラ、セクハラ、マタハラともに一元化して措置を講じるようご対応ください。

① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

具体的な取組例は下記の通りです。

ア どのような言動が、職場におけるハラスメントにあたるのかという内容及び、職場においてハラスメントを行ってはいけない旨の方針を立て、従業員に周知・啓発を行うこと。

イ また、行為者に対して厳正に対処する旨の方針も立て、その対処の内容を就業規則等の文書に規定し、従業員に周知・啓発を行うこと。

② 相談に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備

具体的な取組例は下記の通りです。

ア 相談窓口を社内もしくは社外(両方だとなおベター)に設け、労働者に周知する。

イ 相談窓口担当者を選任し、相談に適切に対応できるよう体制を整える。

ウ 相談窓口担当者が相談を受けた場合に留意する事項をまとめた(できれば、被害者、行為者、第三者ごとに作成するのが望ましい)マニュアルを作成し、相談があった場合に適切な対応が取れるよう体制を整える。

③ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

残念ながら、職場においてハラスメントと思われる事案が生じた場合に、事業主は適切な対応をとらねばなりません。

ア 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

相談者と行為者の双方から事実関係を確認する。その際、相談者の心身の状態や、ハラスメント行為への受け止め方に配慮しつつ、5W1Hを意識して、具体的な事実関係をヒアリングすること。

相談者と行為者の間で、事実関係に関する主張に不一致があり、事実確認が十分ではない場合には、目撃者などの第三者からヒアリングを行うことも必要となる。

イ 速やかに被害者に対する配慮の措置を適切に行うこと。

ヒアリングを行った結果、ハラスメントと判断した場合には、ハラスメントの内容や状況に応じた適切な措置を速やかに行う。具体的な措置として、被害者と行為者との関係修復の援助、配置転換、行為者の謝罪等があげられる。

ウ 行為者に対する措置を適切に行うこと。

行為者の言動がハラスメントだと判断した場合には、行為者に対して、必要な懲戒を行う。(懲戒を行うためには、就業規則に、懲戒の規定とハラスメントに関する規定が存在することが必要です。)

オ 再発防止に向けた措置を講ずること。

事実関係を確認した結果、ハラスメントと判断した場合であっても、判断しなかった場合であっても、「現に生じている職場の課題」にどう対応するか、再発防止の措置をとることが必要です。

④ 相談者と行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること。

相談者と行為者のプライバシーを守りつつ対応することが大切です。いくら迅速かつ適切に対応したとしても、関係者のプライバシーが守られず、調査過程が違法であったと判断され、事業主に損害賠償が命じられた判決もあります(京丹後市事件:京都地裁判令和3年5月27日)。また、ハラスメントの相談に関して、相談者や関係者のプライバシーを保護する旨、従業員に周知します。

⑤ ハラスメントの相談をしたこと等を理由として、解雇など不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知・啓発すること。

④と⑤の措置は、社内報やパンフレット、従業員への通知文書、社内ホームページ等を活用し、従業員に周知すると良いでしょう。また、周知を1回限り行うのではなく、ハラスメントに関する研修や講習を定期的に行うなど、社内においてハラスメントに関する意識を啓発することも有用です。

 

5 事業主が取るべき措置のチェックリスト

(相談窓口に関するもの)

  • 相談窓口を社内もしくは社外(できれば両方に)設置した。
  • 相談窓口担当者を(できれば複数。男女両方の相談担当者を)選任した。
  • 相談窓口と人事部門との連携をした。
  • 相談対応マニュアル(被害者、行為者、第三者ごとに作成するのが望ましい)を作成した。
  • 相談窓口担当者への研修をした。

(周知・啓発に関するもの)

  • ハラスメントに関する事業主の方針を立て、従業員に周知・啓発を行った。
  • 就業規則等にパワハラ禁止を規定した。
  • 就業規則等にパワハラの場合の懲戒を規定した。
  • 就業規則等にパワハラの相談等を理由として、不利益な取り扱いをされない旨規定し、周知を行った。
  • マニュアル等に相談者・行為者等のプライバシーの保護を規定し、周知を行った。

 

6 まとめ

顧問会社様におかれまして、4月1日までにパワーハラスメント防止措置につき、必要な対応をすべて行われることは、大変な作業かと存じます。

弊所において、顧問会社様にご提供できるサポートの一例をご案内いたします。ご必要なサポートがございましたら、どうぞお気軽にご相談下さい。ご連絡をお待ちしております。

【ご提供可能なサポート】

① ハラスメントに関する従業員への通知文書や社内報に掲載する記事等、従業員への周知に関する文書の作成やリーガルチェック

② 就業規則改定案の作成や、就業規則改定手続き

③ 相談対応マニュアル案の作成や、相談窓口担当者への研修

④ ハラスメントに関する社内研修

⑤ 弊所を外部相談窓口として指定頂く(こちらは、ライトプラン以上の顧問契約の顧問先様限定とさせて頂きます)

 

なお、万一、貴社内でハラスメントと思われる事案が生じた場合には、早期の対応が必須ですので、ぜひ弊所にご連絡下さい。