2022年1月号
大寒を迎え、毎日寒さが続いておりますが、顧問会社の皆様にはお変わりありませんでしょうか。
年明けより、感染力の強い新型コロナウイルスのオミクロン株が、日本中を席巻し、いつコロナ禍が治まるのかなかなか先の見えない状況です。
太陽暦のお正月は過ぎましたが、太陰暦上のお正月(旧正月)は、今年は2月1日です。旧正月を迎え、一陽来復の春が来て、コロナ禍で重苦しいこの雰囲気が一掃されることを期待しています。
さて、今月は新年度に向け、厚生労働省予算概算要求を参考にして、令和4年度の助成金の動向について解説いたします。
1 令和4年度厚生労働省予算概算要求の内容
厚生労働省における令和4年度の予算概算要求額は33兆9450億円と、令和3年度の予算額33兆1380億円より、8070億円増額での要求額となっています。増額分の約8割に当たる6738億円は、年金・医療費等に係る経費として要求されており、日本の高齢化を如実に反映した内容となっています。
2 令和4年度厚生労働省予算概算要求における重点要求
厚生労働省は、令和4年度の予算概算要求の柱として、
① 新型コロナの経験を踏まえた柔軟で強靭な保険・医療・介護の構築
② ポストコロナに向けた「成長と雇用の好循環」の実現
③ 子供を産み育てやすい社会の実現
④ 安心して暮らせる社会の構築
を掲げています。
その4つの柱の詳細中、来年度の助成金に係ると思われる要求は以下の通りです。
ア 雇用の維持・在籍型出向の取り組みへの支援→雇用調整助成金
イ 男性が育児休業を取得しやすい環境の整備に向けた企業の取り組み支援
ウ 不妊治療と仕事の両立支援
エ 70歳までの就業機会確保等に向けた環境整備や高年齢労働者の処遇改善を行う企業への支援
オ 障害者の就労促進(中小企業をはじめとした障害者の雇入れ支援等)
カ ワークライフバランスを促進する休暇制度・就業形態の導入支援による多様な働き方の普及・促進
キ 時間外労働削減や年次有給休暇取得促進、勤務間インターバル導入、労働時間の適正管理等に取り組む中小企業・小規模事業者への助成金による支援
ク 賃上げしやすい環境を整備するための最低賃金・賃金の引き上げに向けた、生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者への助成金による支援の充実
ケ 非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善を行う企業への支援
3 令和4年度の助成金について
予算概算要求の重点要求からも明らかなように、令和4年度のキーポイントは、以下の6点です。このキーポイントに係る助成金が狙い目になってくると思われます。
① 雇用の維持
② 両立支援(男性育休取得促進・不妊治療と仕事の両立)
③ 高齢者の就労・社会参加の促進
④ 働き方改革(時間外労働削減・年次有給休暇取得促進)
⑤ 生産性向上・賃金引上げ
⑥ 非正規雇用労働者の正社員化、待遇改善
4 個別の助成金について
① 雇用の維持に関する助成金→雇用調整助成金
主に新型コロナウイルス感染症の影響を受けたために、売上が減少した企業の雇用維持を目的とする助成金ですので、コロナ禍の収束が見通せない令和4年度も、継続して支援がなされるものと考えられます。
② 両立支援等助成金→出生時両立支援コース・育児休業等支援コース・不妊治療両立支援コース
女性育休に関する「育児休業等支援コース」は、両立支援の柱ともいうべきロングランの助成金ですが、令和4年度も令和3年度と変わりなく、支給要件について厳しい審査がなされると思われます。
また、男性育休に関する「出生時両立支援コース」に関しては、男性育休に関する令和4年度の概算要求額(125億円)が、令和3年度の予算(136億円)より11億円減じており、かつ、令和3年度の支給要件が緩やかで、支給金額も高額であったことから、令和4年度において本助成金に関する支給要件・支給金額が厳しくなるのではないかと推測しています。
つまり、助成金受給申請時の添付書類である就業規則及び、賃金台帳や出勤簿といったその他の書類の審査が令和3年度よりかなり厳しくなる可能性がありますので、令和4年4月1日以降に育休を取得する可能性のある男性社員がいらっしゃる顧問会社様は、まずは、就業規則(育児・介護休暇規程)を見直しておかれるとよろしいかと思います。
不妊治療に関する「不妊治療両立支援コース」につきましては、令和3年度の助成金額も高くなく、申請件数も多くなかったことから、令和4年度は現状維持だろうと考えます。
③ 65歳超雇用推進助成金→65歳超継続雇用促進コース、高年齢者無期雇用転換コース
定年延長に関する「65歳超継続雇用促進コース」は令和3年度において、支給要件が緩やかで、かつ助成金額が大変大きかったことから、支給申請が殺到し、9月の半ばで申請の受付が締め切られました。令和4年度においても同内容の助成金は継続すると思われますが、令和3年度の予算(80億円)より令和4年度の概算要求額(65億円)が減じていることから、支給要件が厳しくなり、支給額も低額になると思われます。
また、令和4年度においても、人気の助成金となることが見込まれることから、本年度と同様に、年度の途中で申請の受付が締め切られる可能性があります。本助成金の申請をお考えの場合は、できるかぎり早めの申請が必要かと考えます。
50歳以上の有期契約従業員を無期契約に転換した場合に受給できる「高齢者無期雇用転換コース」については、キャリアアップ助成金に関する予算が令和4年度において令和3年度の予算より減となっていることから、キャリアアップ助成金の正社員化コースの受給要件が見直される可能性があるため、「高齢者無期雇用転換コース」の人気が上がるのではないかと推測しています。そこで、こちらの助成金の申請を希望される場合も、年度途中での締切に注意して、できるかぎり早めに申請を準備されることをお勧めします。
④ 働き方改革(時間外労働削減・年次有給休暇取得促進)→労働時間短縮・年休促進支援コース、勤務間インターバル導入コース
労働時間の短縮や、年次有給休暇取得促進に向けた設備・機器の導入に取り組んだ場合に受給できる「労働時間短縮・年休促進支援コース」は、一昨年に続き令和3年度も人気の助成金であったため、10月に申請の受付が締め切られました。令和4年度にこちらの助成金の申請をお考えであれば、早めに申請準備に取り掛かられることをお勧めします。
勤務間インターバル制度を取り入れた会社が、労務管理機器等の導入を実施した場合に受給できる「勤務間インターバル導入コース」につきましては、令和3年度においては、受給要件が大変厳しかったため、申請件数が少なかったのですが、令和4年度の概算要求額が前年の予算額とほぼ同額であったため、受給要件が緩和されて受給しやするなるのではないかと期待しています。
⑤ 生産性向上・賃金引上げ→業務改善助成金
社内で最も低い労働者の賃金(事業場内最低賃金)を引き上げ、生産性向上に資する設備投資を行った中小企業が受給できる「業務改善助成金」は、厚生労働省が賃金の引き上げ、生産性向上を重視しており、かつ、令和3年度の予算(12億円)より令和4年度の概算要求額(34億円)が高くなっていることから、令和4年度において注目の助成金です。
令和4年度においては、令和3年度よりも助成金額がアップするもしくは、受給要件が緩やかになる、又は新たな助成金のコースができ、活用しやすくなるのではないかと期待しています。
⑥ 非正規社員の正社員化→キャリアアップ助成金
数多くの顧問会社様において活用されているキャリアアップ助成金ですが、令和4年度は予算減額の方向です。それに伴い、受給要件の厳格化が見込まれますので、申請時の添付書類である、就業規則及び、雇用契約書、賃金台帳等が現行法に則したものになっているか、見直しが必要になってくると考えます。
なお、厚生労働省は、中小企業の生産性の向上を図るため、有期契約従業員の正社員化と併せて対象従業員にIT訓練等を行った場合に、助成金の上乗せを行うと明らかにしています。
有期契約従業員のレベルアップと正社員化を目指している顧問会社様には、まさに狙い目の助成金です。
5 まとめ
厚生労働省は、働き方改革、少子高齢化対策、生産性向上といった課題の解決方法の一つとして、長時間労働の是正に向けた監督・指導体制の強化を図る方針です。
つまり、働き方改革推進助成金はもちろんのこと、その他の助成金においても、各企業の労務管理体制へのチェックが厳しくなると考えられます。
就業規則や雇用契約書及び、タイムカード、出勤簿、賃金台帳等々の帳簿類を現行法に則した形で整えることはもちろんですが、36協定に関しても、労働基準監督署による監督や指導が厳しくなることが予想されます。
助成金の受給要件の一つとして、36協定の届出が必須になることも考えられますので、36協定の届出がまだ、もしくは期限が切れている顧問会社様は、早急に対処されることをお勧めします。36協定に関するご相談もお伺いしますので、必要がございましたら、お気軽にご連絡下さい。
また、令和4年度の助成金情報を新たに入手でき次第、顧問会社様にご共有させて頂きます。
貴社の労務管理体制整備のために、助成金をご活用下さい。