2021年12月号

冬至も近くなり、冷え込む日々が続いていますが、顧問会社の皆様にはお変わりありませんでしょうか。

昨年来全世界を騒がせている新型コロナウイルスも、アルファやベータを経て、オミクロンと名付けられた変異株が猛威を振るっています。

これ以上変異株に当てはめるギリシャ文字があるのだろうか、などとつまらない想像をしてしまうのですが、国内のワクチン接種も随分進み、来年度以降には国産ワクチンや特効薬の開発も進むでしょうから、マスクなしで外出できる日々が戻ってくることを心から期待しています。

さて、今月は年次有給休暇、いわゆる「有休」の時季指定取得について解説いたします。

 

1 日本における年次有給休暇の取得状況

基本的に、年次有給休暇は「労働者が請求する時季に与えるもの」とされていますので、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、使用者は、労働者から請求された時季に年次有給休暇を与える必要があります。

しかし、日本における有休取得率は令和2年度で56.6%(労働者平均付与日数17.9日、平均取得日数10.1日)となっており(厚生労働省「令和3年就労条件総合調査 結果の概況」より)、調査の始まった昭和59年以降の最高値ではありますが、国の目指す目標値である70%にはほど遠い状況です。

また、厚生労働省の行政通達によりますと、いわゆる正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得しておらず、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については、長時間労働者の比率が高い実態にあるそうです。

日本のこのような現状を受けて、「働き方改革」推進の一環として、労働基準法が改正され、すべての企業において、年次有給休暇のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが2019年4月から義務付けられました。

 

2 年次有給休暇の時季指定取得について

(1)対象者

年次有給休暇が10日以上付与される労働者

対象労働者には管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

(2)時季指定の期間

労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなくてはいけません。

(例:2021年4月1日に入社した社員の場合、2021年10月1日に10日間の年次有給休暇が付与されますので、2022年9月30日までの1年間に5日年休を取得させる必要があります。)

(3)時季指定の方法

使用者は、労働者の意見を聴取した上で、時季指定をする必要があります。

また、聴取した意見を尊重して、できる限り労働者の希望に沿った取得時季にするよう努めなければいけません。

(4)時季指定を要しない場合

すでに5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はありません。

なぜなら、年次有給休暇はあくまで「労働者が請求する時季に与えるもの」であり、時季指定の制度はその例外的な措置ですので、5日以上年次有給休暇を請求・取得している労働者に対して、時季指定はできないからです。

なお、使用者が休日を指定して、有給休暇を計画的に与える「計画年休」の制度を導入し、労働者に計画年休を5日以上取得させている場合にも、時季指定はできません。

(5)年次有給休暇管理簿

年次有給休暇が10日以上発生する労働者を雇用する全ての会社に、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務が課せられています。

年次有給休暇管理簿とは、文字どおり、労働者の年次有給休暇を管理する帳簿のことで、その労働者が有する年次有給休暇の日数と、いつ、何日休んだのかが分かる内容を記載する必要があります。

つまり、具体的には「基準日」「時季」「日数」を記載します。

「基準日」=労働者に10日以上の年次有給休暇を取得する権利が発生し た日

「時季」=労働者が年次有給休暇を取得した具体的な日付

「日数」=労働者が実際に取得した年次有給休暇の日数

なお、この帳簿の作成・保管を怠ったとしても罰則はありませんが、使用者には、労働者に年次有給休暇を取得させたことを説明・立証する義務があり、その説明・立証ができない場合には罰則が設けられています。

この説明・立証を行う際に、年次有給休暇管理簿は有用です。

(6)就業規則への規定

休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)ですので、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合には、時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要があります。

 

3 罰則

年次有給休暇の取得に関しては以下の罰則があります。

① 年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合

→30万円以下の罰金(労働基準法第120条)

② 使用者による時季指定を行う場合に就業規則に規定がなかった場合

→30万円以下の罰金(労働基準法第120条)

③ 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合

→6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金(労働基準法第119条)

 

4 年次有給休暇の管理について

事業主にとって、従業員全員の年次有給休暇の日数や取得状況を把握し、取得していない従業員に取得を促す、といった年次有給休暇の管理には大変手間がかかります。そこで、事業主の負担軽減に役に立つ方策をいくつかご案内します。

(1)基準日の統一

各従業員の10日以上の年次有給休暇が発生する「基準日」がバラバラだと管理がしにくいため、基準日を統一しておくと管理がかなり楽になります。

基準日の統一の具体的な方法として、

ア 社内の基準日を、「年始」や「年度始め」等に1つにまとめておく。

イ 中途採用者が多く、各従業員の入社日がバラバラの事業所の場合は、基準日を「毎月月初」などに統一しておく。

といったやり方があります。

(2)年次有給休暇取得計画表の作成

日本人は、休暇をとることに抵抗を感じたり、周囲の目を気にする傾向があるため、上司や同僚に気兼ねして、年次有給休暇を取得することが苦手な人が多いです。

そこで、従業員の年次有給休暇の取得を促すため、事業所に年度別や四半期別、月別の個人ごとの「年次有給休暇取得計画表」を作成し、各従業員の年次有給休暇の取得予定を明らかにしておくことで、職場内の従業員間において、取得時季の調整がスムーズにでき、各従業員が年次有給休暇を取得しやすくなる効果があります。

なお、年次有給休暇取得計画表を作成するタイミングですが、基準日にその年の計画表を作成しておくと、従業員も1年間のタームで自分の年次有給休暇の取得予定を考えられますので、取得促進につながると思います。

(3)休暇を取得しやすい環境を作る

仕事を個人で行うのではなく、チームで行い、チームの中で進捗状況や情報を共有する体制を作っておくと、職場全体が休暇を取得しやすい環境になります。チームのメンバーが不在でも仕事が回せるように職場環境を整えておくことは、年次有給休暇の取得のみならず、不測の事態が生じたときにも対応可能な強い組織作りにつながります。

従業員相互が、各自の業務に関する情報を共有しあえる風通しのよい職場環境を目指しましょう。

 

5 年5日の確実な年次有給休暇取得のための方法

年次有給休暇をとりやすい職場環境に整えたとしても、従業員によっては年次有給休暇を年5日以上取得しない人もいらっしゃいます。その場合に、年5日以上取得させる方策は、以下のとおりです。

(1)使用者からの時季指定を行う

使用者から、年5日年次有給休暇を取得していない従業員に、個別に、時季指定を行って年次有給休暇を取得させる方法です。

時季指定をするタイミングは、特に法律に規定がある訳ではないので、適時に行いますが、思いついたときに時季指定をするような対応では合理的ではないため、基準日から一定期間が経過した際に(例えば半年等)取得状況を確認し、年5日取得していない従業員に取得時季を指定するシステムを作っておくとよいと思います。

また、過去の実績から、年次有給休暇の取得率が著しく低い従業員に対しては、年間を通じて計画的に年次有給休暇を取得できるよう、本人の意向を聞いた上で、基準日に、使用者から時季指定をして取得につなげることも有効な手段です。

(2)年次有給休暇の計画的付与(計画年休)を行う

会社全体において取得率が低い場合等には、年次有給休暇の計画的付与制度を導入し、前もって計画的に、休暇取得日を使用者が割り振ることも有用です。

ただし、計画年休の導入は、「年次有給休暇の従業員による自由な取得」という原則に反する面もありますので、「就業規則による規定」と「労使協定の締結」が必要になります。また、計画的付与の対象となる日数は、「付与日数から5日を除いた残りの日数」です。少なくとも5日は従業員の自由な取得を保障しなくてはなりません。

 

6 年5日取得のカウント方法

年次有給休暇の半日・時間単位での取得を認めていらっしゃる事業主も多いと思います。

従業員が年次有給休暇を半日・時間単位で取得している場合、厚生労働省の行政通達によると、年5日取得のカウントに、半日単位での取得については、0.5日として「日数」に含みますが、時間単位での取得については、「日数」に含みませんので、従業員が時間単位で年次有給休暇を取得されている場合には日数のカウントにご注意下さい。

 

7 まとめ

年次有給休暇を労働者に取得させることは、労働者のリフレッシュにつながります。

仕事と家庭の両立のための休暇の取得はもちろん必要ですし、労働者のモチベーション維持や日々の生産性を高めるためにも、適度な休息が必要であることが様々な研究結果からも明らかになっています。

先ほどもお伝えしましたが、日本人は、「休暇をとる」ことに負のイメージを抱いていたり、周囲や会社に気兼ねするなど、休暇をとることが不得手です。

是非、貴社におかれては、年次有給休暇取得に関する方策を立て、従業員の方々に適切に休暇をとってもらい、いつもフレッシュな状態で仕事に励んでもらえる環境づくりを目指して頂ければと思います。