2021年11月号

木枯らしの吹く季節になりました。新型コロナウイルスの感染状況も落ち着いていますので、年末に向けて忘年会など会合をご予定されている方々もいらっしゃるかと存じます。完全にコロナ禍前の状態に戻る日はまだまだだと思いますが、少しずつ以前の日常が戻ってくることはとても喜ばしいですね。

今月のニュースレターでは、最近相談の増えているメンタルヘルス不調社員の休職の取扱いについて取り上げます。メンタルヘルスに関する問題は年々増加傾向にあり、どちらの顧問会社様でも決して他人事ではありません。ニュースレターでのご案内ですので紙面に限りがありますが、顧問会社様のご参考になれば幸いです。

 

1 休職から復職までの流れ

休職から復職までの流れについては、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(2004年制定、2012年改訂)において、5つのステップに分けて説明されています。

第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア

第2ステップ 主治医による職場復帰可能性の判断

第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

第4ステップ 最終的な職場復帰の決定

第5ステップ 職場復帰後のフォローアップ

各ステップにおいて注意すべき点は次の通りです

 

第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア

休職開始の取り扱いには従業員とのトラブルの火種になりやすいので、注意が必要です。

まず、貴社の就業規則・社内規程に休職制度はありますでしょうか。

また、その休職規程の休職事由は「従業員に病気の自覚がなく、欠勤の意思がない場合」などのイレギュラーなケースの場合に対応できる内容でしょうか。

メンタルヘルス以外の場合でも、会社が適切に従業員の健康管理をする上で、従業員自身に自覚はないが、周囲から見て体調不調と推察される場合に、会社が医師の受診を命じて診断書を提出させる規程が必要です。ぜひこの機会に、貴社の「休職規程」について確認されることをおすすめします。

なお、休職を従業員に適用する場合、トラブル防止のため、就業規則の休職要件を確認した上で、適切な休職命令を書面で出しておくことが重要です。

特に、メンタルヘルス不調について、会社でのパワハラや長時間労働を原因として、労災申請をしたいと従業員から事業主証明を求められる場合があります。紛争を未然に防止するためにも、休職に関する判断をされる場合には、ぜひ事前に、顧問弁護士にご相談下さい。

加えて、休職期間中は、職場復帰の際の参考になりますので、療養の妨げにならない範囲で、従業員から病状報告や生活リズム等の報告を求めましょう。休職期間中の従業員の管理も大切です。

 

第2ステップ 主治医による職場復帰可能性の判断

主治医から復職を可とする診断書が提出される段階です。もっとも主治医は、患者である従業員が復職する職場の具体的かつ詳細な状況を知らず「復職可能」の診断をしていることがあります。

会社はその診断内容について、従業員の同意を得た上で、主治医面談を行い、必要な情報の収集と評価を行うことが必須です。この際、必要であれば、復職可否の判断材料としてカルテの開示を求めることも検討します。

主治医から得るべき必要な情報として、初診の時期を含めた従業員の病状の詳細、服薬情報などが挙げられます。

また、主治医は患者である従業員の職場環境について詳しい情報を得ていないことが多いため、必ず会社側は主治医と面談をして、職場環境につき詳細を説明した上で、復帰後予定している仕事内容と量、配慮すべき事項について主治医の意見を聞いておきましょう。これらの情報は復帰後のフォローアップにおいて、疾患の再発防止や従業員の健康管理にも役立ちます。

 

(※これらの健康情報はプライバシーとして保護の対象となるほか、個人情報保護法の要配慮個人情報に該当するものですので、取扱いには配慮が必要です。従業員の健康確保に必要な範囲で情報を収集し、その取扱いは職場復帰支援に関わる者が、それぞれの責務を遂行する上で必要な範囲の情報に限定して取り扱うことが原則です。)

 

また、会社に産業医がいる場合には産業医と連携をとり、必要であれば従業員に産業医(もしくは会社指定医)への受診の指示をします。

それら全ての情報を踏まえた上で、従業員の復帰の意思を確認し、復職が可能である場合には「職場復帰支援プラン」を作成します。

 

第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」において、職場復帰支援プランを作成する際の検討事項として次の内容が挙げられています。

① 職場復帰日

② 管理監督者による就業上の配慮(業務でのサポートの内容・方法、段階的な就業上の配慮)

③ 人事労務管理上の対応等(配置転換や異動、段階的な就業上の配慮等)

④ 産業医等による医学的見地から見た意見

⑤ フォローアップ(復職後の管理監督者・事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法等)

⑥ その他(試し出勤制度がある場合の利用等)

 

就業上の配慮や人事労務管理上の対応の決定については、復職することになる職場で求められる業務遂行能力に関する情報を提供した上で、産業医や主治医位の意見を聞くことが有用です。

 

第4ステップ 最終的な職場復帰の決定

作成した職場復帰支援プランに基づいて、会社として最終的な職場復帰の決定をします。

メンタルヘルス不調で休職していた従業員は、この不調が「治癒」した場合に復職するのですから、「従業員が従前行っていた職務について、通常の程度に行える健康状態に回復」しているはずなので、基本的には元の職場・業務に戻すことになります。

ただし、医師から業務内容の変更や軽減の必要性を指摘されている場合には、そもそも復職の可否自体に疑問が生じるところではありますが、裁判所の判例では、他に就かせる業務があって、その業務について就労できるということであれば、就労可能とみなさなければならないとしています。

また、本人が元の職場・業務への復帰を希望しているが、会社側が別の業務に就かせたいと考えている場合も、慎重に検討することが必要です。

なぜなら、会社が従業員のため負担軽減になるだろうと配慮して配置転換を行ったが、新しい業務や人間関係になじめず、メンタルヘルス不調を再発した、というケースが少なくないからです。

配置転換については、主治医、産業医(会社指定医)にアドバイスをもらった上で、従業員本人に丁寧に説明をして、本人の不安を取り除き、了解を得たうえで行う必要があります。

復職の決定は、復帰後の配置を含む就業上の配慮の内容と共に、従業員本人に通知し、かつ、これらの情報は管理監督者や人事労務管理スタッフとも共有し、復職後のサポートがスムーズに行えるよう準備します。

 

第5ステップ 職場復帰後のフォローアップ

復職後は、メンタルヘルス不調の再発をさせないよう、管理監督者や人事労務管理スタッフ、産業医(会社指定医)や主治医が連携して、定期的に疾患の再発の有無、勤務状況や業務遂行能力、治療状況などを確認し、従業員の管理・評価を行うこととなります。

 

2 復職後の働き方

配置転換について

配置転換については、先ほど少し触れましたが、職場復帰に際しては「まずは元の職場・業務への復帰」が原則です。

配置転換や異動が必要と思われる場合にも、まずは元の慣れた職場で、ある程度のペースをつかめるまで業務負担を軽減しながら経過観察を行い、その上で配置転換や異動を行った方がよいと思われます。

なお、復職する従業員自身が配置転換を希望した場合、会社がこれに応じる必要があるのか、という問題があります。

裁判所の判例では、労働契約上、労働者の職種や業務内容が限定されている場合には、労働者がそれ以外の職種等への配置転換を希望して、元の職場への復帰を拒む場合、復職を認めず退職扱いまたは解雇の検討をせざるを得ないとしています。

しかし、労働契約上、そのような限定をしていない従業員の場合、会社には、この従業員を配置できる他の業務があるのかを検討し、そのような業務がある場合には、回復が不十分で、従前の職場には復帰させることができない以上、その業務に配置する必要があると判示しています。

したがって、会社においては、当該従業員を配置する可能性のある業務の有無を検討した上で、配置可能性のある業務がない場合に退職扱いや雇用関係の終了といった最後の手段を検討することが望ましいです。

 

待遇変更(賃金減額・降職・降格)について

復職に際して、業務の軽減をはかるので、従業員の給与を減額してもよいかどうかということがよく問題になります。

これは会社の給与規程が「職務給制度」=労働者の従事する職種や業務内容によって賃金を決定する制度をとっているか、「職能資格制度」=労働者の職務遂行能力に応じて賃金を決定する制度をとっているかで取り扱いが異なってきます。

日本においては、完全な職務給制度をとっている会社は少ないと思われますが、職務給制度を取っている場合には、労働者の従事する職種や業務内容と賃金が連動していますので、復職に伴い、職種や業務内容が変更された結果、職務等級が引き下げられ、賃金が減額されるということはあり得ます(ただし、就業規則に職務等級の引き下げの根拠規定が必要。また、職務等級の引き下げについて人事権の濫用とならないよう注意を払う必要があります)。

職能資格制度をとっている場合には、就業規則中に職能資格の引き下げに関する根拠規定がなければ、一方的に賃金額を改定することはできません。

役職を解いてよいかどうかといった「降職」についての判断は、会社の人事権の問題であり、先ほどの職務等級の引き下げや職能資格の引き下げといった「降格」とは別問題ですので、降職については、就業規則に規定がなくても可能です。

(ただし、役職が職能資格と連動している場合は、事実上の降格と判断される可能性があります。)

いずれにしても業務内容や仕事の軽減等を従業員に丁寧に説明し、同意を得ることが紛争防止に必要です。

 

3 まとめ

メンタルヘルスに関する問題は、年々増加しており、問題が生じてからでは、対応に手間や時間がかかるおそれがあります。自社には関係のない問題だと考えずに、まずは貴社の現状の就業規則をチェックされることをお勧めします。

また、厚生労働省では「メンタルヘルス対策関係助成金」という、メンタルヘルス対策に取り組む会社への助成金も用意しています(メンタルヘルス対策促進員(活用は無料)の助言・指導を受けて「心の健康づくり計画」を作成・実施した場合、10万円の助成が受けられる、という「心の健康づくり計画助成金」等。その他、ストレスチェックを実施した場合に受給できる助成金もあります)。

こういった助成金を活用して、自社にメンタルヘルス対策を講じておくことも大変有用です。

就業規則のチェックのご要望や、助成金の活用にご興味のある顧問会社様は、ぜひ弊所宛てご一報下さい。