2021年9月号

秋分の日も過ぎて、秋の夜長の季節になりました。

顧問会社の皆様には、お変わりなくお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。

今月は、令和3年6月9日に公布されました育児・介護休業法改正の解説と、育児休業に関する助成金のご紹介をいたします。この改正法の施行は、改正内容にもよりますが、早いものは来年令和4年4月1日からの施行となります。

法律の改正に対応し、より働きやすい職場を目指すとともに、積極的に助成金を活用して貴社の発展につなげていきましょう。

 

1 育児・介護休業法の主な改正事項

①育児休業等の周知に関する見直し

・妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別周知・取得意向確認の義務付け

・育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務付け

②育児休業の見直し

・有期雇用労働者の育児休業及び介護休業取得要件の緩和

・育児休業の分割制度

・1歳到達日後の育児休業の見直し

・出生時育児休業の創設

・従業員1000人超の企業に育児休業の取得状況の公表の義務付け

 

2 育児休業等の周知に関する見直し

①個別周知・取得意向確認の義務付け(施行:令和4年4月1日)

現行法では、事業主は、労働者(又はその配偶者)が妊娠・出産したこと等を知ったとき、自社の育児休業等に関する定めについて労働者に個別に知らせることが「努力義務」とされていますが、今回の改正により、令和4年4月1日から、「努力義務」が事業主の「義務」になります(個別周知義務)。

また併せて、育児休業等の取得の意向を確認するための面談等の措置をとること(取得意向の確認)も事業主に義務付けられます。

②育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務付け(施行:令和4年4月1日)

令和4年4月1日より、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備し、労働者から育児休業取得の申出がスムーズに行われるように、以下のいずれかの措置をとることが事業主に義務付けられます。

・育児休業に係る研修の実施

・育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口の設置等)

・その他省令で定める措置(→今後省令で定められます。「制度や取得事例についての情報提供等」が定められると思われます。)

 

3 育児休業の見直し

①有期雇用労働者の育児休業と介護休業取得要件の緩和

(施行:令和4年4月1日)

現行法では育児休業と介護休業を取得できる有期雇用労働者は、

イ 事業主に引き続き雇用された期間が1年以上の者

ロ 養育する子が1歳6か月に達する日までに労働契約が終了する者ではないこと(介護休業の場合は、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日までに労働契約が終了する者ではないこと)

の2点を満たす必要がありましたが、令和4年4月1日からこの要件が緩和され、イの要件が廃止されます。つまり、入社後1年未満の有期雇用労働者であっても、ロの要件を満たせば育児・介護休業を取得できることとなります。

②育児休業の分割取得

(施行日:未定=公布日から1年6か月を超えない範囲内で政令で定める日)

現行法では、子が1歳に達するまでの育児休業の取得は、原則として、子1人に対して1回限りとされていますが、改正後は、育児休業は理由を問わず2回まで分割して取得することが可能となります。また、育児休業の撤回についても、2回に分けて取得する場合、1回目・2回目それぞれについて撤回できることとなります。

③1歳到達日後の育児休業の見直し

(施行日:未定=公布日から1年6か月を超えない範囲内で政令で定める日)

現行法では、1歳から1歳6か月までと1歳6か月から2歳までの休業について、取得できる回数などが定められていませんでしたが、改正後は、取得できる回数を原則1回とし、厚生労働省令で定める特別な事情がある場合のみ育児休業終了後であっても再度育児休業を申し出ることができることとしました。

また、現行では、育児休業の開始日について、1歳から6か月までの育児休業は「子が1歳に達する日の翌日」、1歳6か月から2歳までの育児休業は「子が1歳6か月に達する日の翌日」に限定されていましたが、改正後は、配偶者が育児休業を取得している場合、「配偶者の育児休業終了予定日の翌日以前の日」も開始日にできることとなり、現行より柔軟に休業開始日を設定できるので夫婦間での育休の交代ができやすくなります。

※なお、②育児休業の分割取得と③1歳到達日後の育児休業の見直しの施行日はまだ決まっておらず、「公布日から1年6か月を超えない範囲内で政令で定める日」とされています。(令和4年10月1日頃になる可能性が高いとのことです。)

 

4 出生時育児休業の創設

(施行日:未定=公布日から1年6か月を超えない範囲内で政令で定める日)

子が1歳に達するまでの育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで休業を取得できる制度(出生時育児休業)が創設されます。子の出生後8週間は、女性は産後休業を取得している時期なので、この育児休業は基本的に男性が取得する休業です。出生時育児休業の内容をご説明します。

①対象期間

子の出生後8週間以内に4週間以内の休業が取得できます。

②回数

期間内に分割して2回まで取得可能です。ただし、出生時育児休業を申し出る際に2回分まとめて申し出る必要があります。

③事業主の義務

事業主は、出生時育児休業の申出があった場合、その申出を拒むことはできません。

④申出の期限

出生時育児休業は、原則として2週間前までに申出をする必要があります。

⑤休業中の就労

現行の育児休業中の就労は、労使合意のもと、「あくまで一時的・臨時的な就労に限り可能」となっていますが、出生時育児休業では、労使協定の締結が必要ですが、一定の範囲内で就労することが可能となっており、男性従業員が出生時育児休業を取得しやすいように配慮された内容になっています。

⑥不利益取扱いの禁止

育児休業と同様に、出生時育児休業の取得を申し出たこと等を理由として、労働者に対して不利益な取り扱いをしてはいけません。

 

5 育児休業の取得状況の公表の義務付け(施行:令和5年4月1日)

令和5年4月1日から、常時雇用する労働者数が1001人以上の事業主は、少なくとも毎年1回、育児休業の取得状況を公表することが義務付けられます。

 

6 まとめ

今回の育児・介護休業法の改正は、育児休業の取得の推進、特に男性労働者の育児休業の取得を目指したものだと言えます。時代の趨勢・ニーズを見極め、自社によりよい労働環境を整えることは、優秀な人材の獲得・定着にもつながります。法改正を受けて、各企業が対応すべきポイントを以下に記します。貴社でのご対応について顧問弁護士・社労士としてお手伝いできることがあると思いますので、お気軽にご相談下さい。

 

【対応すべきポイント】

① 「個別周知・取得意向確認」と「雇用環境整備」への対応

周知用の文書の作成や、取得意向確認の際のチェック事項の検討など。

雇用環境整備として、研修を実施するのか相談窓口を設置するのか決定の上、詳細につき検討を行う。

② 法律改正に対応した就業規則等の改定

③ 社内書式の見直し

育児休業申出書、育児休業撤回届等、社内書式を定めている場合には書式の改定も必要です。

④ 労使協定の締結

出生時育児休業は原則として2週間前までに申し出ることとなっていますが、労使協定を締結し、1か月前までの間で申出期間を早めることが可能です。また、労働者が出生時育児休業中、「一定の範囲内」で就労を行う場合にも、労使協定の締結が必要になります。

⑤ 業務体制の整備

男性労働者の育児休業の申出の増加が考えられますので、業務を複数担当制にするなど、社内の業務体制を見直して整えて置くことが必要です。

⑥ 社会保険手続の確認

出生時育児休業や分割取得により、雇用保険の給付や、健康保険・厚生年金保険の保険料免除の手続も必要になります。来年10月から育児休業中の社会保険料の免除要件も変更となりますので、社会保険手続について確認して、育児休業取得がスムーズに行えるよう準備しましょう。

 

【育児休業取得に関する助成金】

両立支援等助成金という仕事と家庭の両立支援に取り組んだ場合に支給される助成金があります。大まかに分けて、女性従業員の出産・育児休業取得に対して支給されるものと、男性従業員の育児休業取得に対して支給されるものがあります。

特に今年は、育児・介護休業法の改正を反映して、男性従業員の育休取得に対する助成金が手厚くなっています。

男性従業員が子の出生後8週以内に連続5日以上(所定労働日が4日以上含まれていること)育休を取得した場合に、助成金を57万円受給できるという内容です。

ただし、男性従業員の育休に関する助成金も、女性従業員の出産・育休に関する助成金のどちらも、出産前から両立支援についての取組みを開始し、助成金申請の準備をする必要があります。

そこで、顧問会社様におかれましては、プライバシーにも配慮しながら、従業員(又はその配偶者)のご出産予定をできるだけ早く把握できる環境作りをお心がけ下さい。また、出産予定のある従業員がいらっしゃる場合にはできるだけ早めに弊所にご相談下さい。